2014年3月31日
抗がん剤治療に伴う食の悩みの原因究明とそれを
踏まえた新しいレシピ開発について
千葉県がんセンター
キッコーマン株式会社
千葉県がんセンターとキッコーマン株式会社は、生活の基本であり、日常生活の楽しみでもある食事について悩みを抱えているがん患者、特に抗がん剤治療に伴う味覚障害に苦しむがん患者の問題を解決するため、4年間にわたり共同研究を行ってきました。客観的な評価が難しい味覚異常を可能な限り科学的に捉え、その結果から実用的な対策法を導き出しました。
このたび、この研究の成果をとりまとめ、学会で発表しました。また、がん患者がおいしく食事を楽しめるように開発したレシピをそれぞれのホームページに公開しました。
1 研究課題名及び目的
- 課題名:『食を通じた在宅がん患者のQOL(※1)向上に関する研究』
- 目 的:がん患者における味覚障害の状況を把握し、がん患者が自宅で食事をおいしく楽しむためのレシピを提供する。
2 共同研究の成果
- (1) 数ある抗がん剤のうち、代表的な2種類([1]FEC療法(※2)で用いられるアンスラサイクリン系抗がん剤、[2]TC療法(※3)で用いられるタキサン系抗がん剤)を投与される「乳がん」の患者を対象に、詳細な味覚調査を行いました。
- (2) [1]FEC療法の場合は、味覚異常は投与直後に現れ、それがコース(※4)を重ねるごとに蓄積しました。[2]TC療法の場合は、味覚異常は投与開始後4、5日目に現れるものの一時的な症状であり、次コースが始まる3週後には回復しました。
- (3) 味覚の基本五味(塩味・甘味・旨味・酸味・苦味)の推移を調べたところ、[1]FEC療法は旨味以外の四味を強く感じる傾向が認められました。特に、苦味を苦痛に感じる患者が多くいました。逆に、[2]TC療法の場合、五味全てを弱く感じる傾向がありました。
- (4) 以上を踏まえ、個々の治療内容と症状に応じたレシピを開発しました。[1]FEC療法の場合は、和風だしやレモンなどをいかし、[2]TC療法の場合は、スパイスや薬味を効果的に用いました。レシピの検証のため、がん患者に、味覚異常が認められた時に自宅でレシピに従って料理し、試食してもらいました。試食後の評価はおおむね良好で、抗がん剤による味覚の変化へ対応できるレシピであることを確認しました。
3 研究成果の公表と利用
- (1) 平成26年2月27~28日にパシフィコ横浜で開かれた第29回日本静脈経腸栄養学会学術集会において発表しました。
- (2) 開発したレシピはがん患者の皆さまに広く利用していただけるよう、千葉県がんセンター及びキッコーマン株式会社のホームページに掲載しました。
千葉県がんセンターホームページ
キッコーマン株式会社ホームページ
※3月31日より、キッコーマンのホームページに、上記の研究成果をいかした
「苦みを感じる」「味が弱く感じる」患者向けのレシピ
21品を、新たに掲載します。
【注釈】
- (※1)QOL:Quality of lifeの略。医療では「生活の質」と訳されることが多い。
- (※2)FEC療法:ファイブエフユー、エピルビシン、シクロホスファミドを併用した化学療法である。代表的な乳がんの術後補助治療である。
- (※3)TC療法:ドセタキセル、シクロホスファミドを併用した化学療法である。代表的な乳がんの術後補助治療である。
- (※4)コース:1回分の治療のこと。抗がん剤投与は通常3~4週間に1度であり、それ以外は自宅で療養することが多い。
以上