しょうゆは微生物が造る、奇跡の調味料

しょうゆは大豆、小麦、食塩を原材料として造られますが、その過程では、麹菌、乳酸菌、酵母の3種類の微生物が働いています。しょうゆはこれら3種類の微生物の働きによって造られる、奇跡の調味料といえます。

微生物の設計図を手に入れる!

私達はこれら3種類の微生物の働きを上手に活用して、しょうゆを造っています。しかし、生物である微生物の働きについては、科学的に全てを解明できていないため、経験に基づいて行っている工程もあります。生物は、生命の設計図として例えられる「ゲノム」と呼ばれる遺伝情報をもっています。私達はゲノムを解読し(①)、性質を理解することで、微生物の働きを科学的に理解できると考え、しょうゆ醸造で働く微生物のゲノム解読への挑戦を始めました。

 

ポイント①

 

ゲノムってなあに?解読って?

ゲノムは「アデニン」、「チミン」、「グアニン」、「シトシン」と呼ばれる、たった4種の物質(塩基)で構成されています。そして、遺伝情報はこれらの塩基の並びにより決まります。ゲノム解読とは、シークエンサーと呼ばれる機器でこれらの塩基の並びを解読することです。

Aspergillus oryzaeのゲノム解読から始まった

しょうゆ醸造では、「一麹、二櫂、三火入れ」と言われ、麹の出来が最も重要で、これがしょうゆの品質を左右すると考えられています。この、しょうゆ麹を造るのに利用される麹菌は2種類あります。Aspergillus oryzaeA. sojaeです。A. oryzaeのゲノム解読は、しょうゆ、清酒、酵素産業などに関わる様々な企業や大学、研究所が連携して実施し、キッコーマンも参画しました。一方、A. oryzaeに先行されていたA. sojaeのゲノム解読は、A. oryzaeの遺伝子情報を基に進められましたが、A. sojaeA. oryzaeは当初の予想よりも違うものであることが徐々に分かってきました。

A. sojaeのゲノム解読

私達は野田産業科学研究所、東京大学、東京工業大学と連携し、次世代型のゲノムシークエンサー(②)によりA. sojaeのゲノム解読に着手しました。着手してから半年、私達は解読に成功し、その成果を論文として発表しました。ゲノム解読したことにより、A. oryzaeA. sojaeは遺伝子レベルでカビ毒非生産であることがわかり、安全性について高い確証を得ることができました。

 

ポイント②

 

次世代型ゲノムシークエンサーってなあに?

DNAの塩基配列を高速かつ安価に解読する新型シークエンサーです。従来型シークエンサーの数千倍の解読スピードをもちます。

さらに、しょうゆ醸造の解明へ

ゲノムは解読しただけでは、そこから何も得ることができません。ゲノム情報はビッグデータのように膨大なもので、目的に沿った有益な情報を見つけ出すには情報解析技術が必要です。現在、私達はしょうゆ醸造に関わる3種類の微生物のゲノム情報を情報解析技術により解析し、微生物の性質を1つずつ解明しています。
しょうゆ醸造を科学的に理解し、世界の人々からさらに愛されるしょうゆを造りたい、すべてはその想いにあるのです。

この研究は、日本醤油協会/日本醤油技術センター 日本醤油技術賞(研究・開発の部)を受賞しました。

 

研究論文

Draft Genome Sequencing and Comparative Analysis of Aspergillus sojae NBRC4239.

著者

Atsushi Sato, Kenshiro Oshima, Hideki Noguchi, Masahiro Ogawa, Tadashi Takahashi, Tetsuya Oguma, Yasuji Koyama, Takehiko Itoh, Masahira Hattori, Yoshiki Hanya

掲載誌

DNA Research, 18, 165-176, (2011).