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弦斎の『食道楽』は、『釣道楽』『酒道楽』『女道楽』に続く、弦斎が考えていた連作「百道楽」の第四編として著されたものである。この弦斎の連作「百道楽」には、先の四編のほか玉突道楽、囲碁道楽、芝居道楽など29種の道楽が考えられていた。道楽というタイトルからして、『食道楽』は美食を勧め、食通を気取る、いわゆるグルメ本のように思われがちである。しかし『酒道楽』が禁酒小説であったように、『食道楽』は、あくまで実用小説であり、教訓小説であり、啓蒙小説であった。また『食道楽』には、明治30年代の社会状況を反映した弦斎の主張が、食はもとより教育論、文学論、経世論、結婚論、家庭論、文明論、未来論など、あらゆる分野にわたって盛り込まれている点に特徴がある。
弦斎が「食」に執着したのは、食べ物こそ人間の根幹であるという考えがあったからである。これは、『食道楽』の合本の巻末付録に収録された「料理心得歌」の一首に「小児には徳育よりも智育よりも体育よりも食育が先き」と詠った。「食」によって、人間の性格が形成されると弦斎は信じていた。現在、「食育」や「地産地消」という言葉がさかんに使われている100年前、平塚の地に16,400坪余の広大な土地を購入し、野菜園、果樹園、草花園、温室、鶏舎、畜舎を設け、畑にはパセリ、アスパラ、アーティーチョークなどの珍しい西洋野菜を作って、弦斎は文字どおり「食育」「地産地消」と「食道楽」の世界を実践した。 |
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平塚の村井弦斎邸内で(明治38年)
(平塚市博物館蔵) |
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現在の平塚市 村井弦斎公園 |
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参考資料 |
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増補註釈版『食道楽』春・夏・秋・冬の巻(柴田書店) |
村井弦斎著 |
『十八年間の研究を増補したる食道楽』(對岳書店) |
村井弦斎著 |
『食道楽(上・下)』(岩波文庫) |
村井弦斎著 |
『父 弦斎の想出』復刻版 食道楽 解説編(柴田書店) |
村井米子著 |
『食生活心得帖・食物に関する十八年間の研究』(新人物往来社) |
村井弦斎著 村井米子編 |
『食道楽の人 村井弦斎』(岩波書店) |
黒岩比佐子著 |
『時代の先駆者 よみがえる村井弦斎』 |
平塚市博物館刊 |
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筆者プロフィール |
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土井 浩(どい ひろし) |
1945年 |
北海道生。明治大学大学院修士終了 |
1971年 |
神奈川県大磯町教育委員会を経て、1974年平塚市教育委員会へ転出
以来平塚市博物館学芸員 |
2002年 |
平塚市博物館館長 |
2005年 |
平塚市教育委員会、社会教育課勤務 |
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