研究機関誌「FOOD CULTURE No.25」―しょうゆと郷土料理― 日本の醤油の特徴
―しょうゆと郷土料理― 日本の醤油の特徴
中国から伝わった穀醤がルーツ
醤油のルーツは、食塩を混ぜた保存食である醤(ひしお)といわれている。原始時代は狩猟民族で、獲物を捕獲した時だけ食事ができたことから、自然発生的に肉を保存する為に食塩を混ぜた肉醤(ししびしお)が生まれたと考えられる。農耕民族になるに伴って、穀物と食塩を混ぜた穀醤が生まれ、仏教の伝来と共に穀醤の製法が中国から日本に伝わったとされている。穀醤の渡来ルートは定かではないが、現在の韓国で、九州の様にアミノ酸液を加えた混合方式の醤油が多く使われていることから、韓国と九州は近い関係にあると思われる。従って、穀醤は、中国から朝鮮半島を通り九州に渡来したのではないかと考えている。大宝律令(701年)に、宮内省の大膳職に属する醤院(ひしおつかさ)で大豆を使った醤が造られていたとされている様に、穀醤はわが国で受け入れられ定着したのである。
中国から伝えられた穀醤は、やがて、日本風に改良が加えられ、最終的にはわが国独自の調味料である醤油が生まれてくることになる。文献に記載が無いので、どの様な物かは分からないが、醤から未醤(みしょう)が生まれたとされている。この未醤の発音が味噌に似ていることから、未醤が味噌の原型ではないかと考えられている。味噌の桶に溜まった溜りが、やがて独立した液体調味料である醤油(溜醤油)になったとされている。一説には、鎌倉時代に禅僧覚心が中国の径山寺から径山寺味噌の造り方を持ち帰り、その製造過程で桶の底に溜まった液体が醤油(溜醤油)になったという説もある。何れにしろ、味噌の溜りから醤油が生まれたのは間違いなさそうである。従って、最も歴史が長い醤油は溜醤油で、室町時代の末頃から関西で醸造が始まっている。
江戸時代に入り、文化の中心が京から江戸に移り、江戸の人々の口に合う醤油である濃口醤油が生まれてくる。それまでの醤油が、大豆だけを原料にした強い旨みを持つ溜醤油に対して、濃口醤油は、原料に小麦を用いることにより旨みだけではなく色も香りも良いことから、全国に広まった。現在、濃口醤油は国内生産量の8割を占めている。その後、兵庫県の龍野で、濃口醤油と製造方法が殆んど同じではあるが、色が淡い淡口醤油(1660年)が発明される。山口県の柳井では、生揚げ醤油に醤油麹を仕込んだ濃厚な別名甘露醤油と呼ばれる再仕込み醤油(1781年)が発明される。また、愛知県の碧南では、小麦が主原料で淡口醤油よりも色が淡く甘味に特徴のある白醤油(江戸時代末期)が生まれてくる。以上の様に、醤油のルーツは中国から伝来した醤ではあるが、わが国独自の発展を遂げ、今や日本の醤油は世界の調味料として認知されている。
中国、韓国の醤油事情
中国では醤の他に、大豆に麹菌を生やした豉(し)も調味料として用いられてきた。現在でも豆豉として存在し、豆豉を油で炒めて濾した油が調味料として料理に使用されている。豉は豆麹のようなもので、麹菌による大豆の分解が行われているので、豉を水で抽出した豉汁が醤油の様に液体調味料として使われてきたようである。不勉強で、中国で豉汁からどの様にして醤油が生まれてきたかは不明であるが、日本とは違った中国式醤油が生まれてくることになる。現在の中国では、低塩固体発酵法で造られた醤油の生産量が多いが、これは人口が多い中国で1950年頃に考案された安価で早く醤油を製造する方法で、脱脂加工大豆と麬(ふすま)を製麹し、水分含量が50%と少ない諸味を仕込み、50℃、約3週間で分解を行い、食塩水で抽出して醤油を造る速醸法である(図1)。この醤油は、加温による着色が進んでいて、日本の醤油とは異なるものとなっている。この他に、日本式の醤油に似た高塩液体発酵醤油も作られている。以前、中国の醤油メーカーにいった時、屋外の大きな瓶(写真1)で諸味を発酵させているのを見て、驚いた記憶がある。最近は、日本の醤油メーカーの技術指導による日本式醤油の製造が増えている。
韓国の家庭では、大豆を茹でて潰し、四角く成形した後、縄でくくり、軒先に吊り下げ枯草菌の発酵を促したメジュ(写真2)を、食塩水と一緒に瓶に仕込んで韓国式醤油を造っている(写真3)。この醤油は、日本の醤油とは異なり枯草菌の酵素で大豆を分解しており、独特の風味を持っている。総窒素は1.4%と旨味はかなり強い。一方、韓国の醤油メーカーで造られる醤油は、戦時中、日本が占領していたことから日本式の醤油製造方法で生揚げ醤油を造っている。本醸造醤油も販売されているが、日本に比べてアミノ酸液を混合した混合方式の醤油が多く販売されている。
全国各地の醤油の生産量
平成24年のしょうゆ製造工場調査の結果を表1に示した。平成24年の醤油の生産量は80万㎘で、各醤油の生産比率は濃口醤油84%、淡口醤油13%、溜醤油1.5%、再仕込み醤油1%、白醤油0.7%であった。濃口醤油の生産量が多い県は、1位が千葉県、2位が兵庫県、3位が愛知県で、大手メーカーの工場が多い県が上位を占めている。淡口醤油の1位が兵庫県であるのは、淡口醤油の産地である龍野が兵庫県なので納得できるが、意外に千葉県が2位と生産量が多いことに驚く。溜醤油でも千葉県が3位と比較的多い生産量を誇っている。再仕込み醤油についてはこの表には出ていないが、1位が埼玉県で1,112㎘、2位が新潟県で1,098㎘、3位が群馬県で1,061㎘であった。埼玉県は県の醤油生産量の28%が再仕込み醤油と高い比率を示していた。白醤油の生産量の95%が表1の県で生産されている。表1は、各県における工場での生産量であって実際の使用量では無いので、醤油の地域性についてはしっかりした調査が必要と考えている。
以上の様に、醤から端を発した醤油ではあるが、国によって発展の仕方が異なり、形状は似ているが全く違ったものが生まれてきている。しかし、今後、日本式醤油の優位性から、日本式醤油が益々広がって行くと考えている。
| 都道府県 | こいくち | うすくち | たまり | さいしこみ | しろ | 合計 | 総生産量の順位 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 千葉県 | 265,046 | 16,187 | 1,451 | 332 | 1,481 | 284,496 | 1 |
| 兵庫県 | 80,469 | 37,688 | 68 | 444 | 17 | 118,686 | 2 |
| 愛知県 | 40,481 | 2,400 | 6,835 | 973 | 2,305 | 52,993 | 3 |
| 群馬県 | 40,661 | 1,526 | 32 | 1,061 | 886 | 44,166 | 4 |
| 香川県 | 35,631 | 7,706 | 7 | 147 | 0 | 43,492 | 5 |
| 大分県 | 25,632 | 7,198 | 0 | 111 | 570 | 33,511 | 6 |
| 三重県 | 22,137 | 1,771 | 2,027 | 0 | 159 | 26,094 | 7 |
| 北海道 | 21,874 | 197 | 0 | 31 | 8 | 22,109 | 8 |
| 青森県 | 20,616 | 409 | 0 | 2 | 0 | 21,027 | 9 |
| 福岡県 | 14,913 | 4,186 | 5 | 305 | 0 | 19,409 | 10 |
| 全国 | 671,911 | 102,022 | 12,027 | 7,685 | 5,665 | 802,310 |

■研究分野
醸造学、応用微生物学
■学歴
東京農業大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士前期課程修了、博士(農芸化学)
■現在の役職
東京農業大学農友会文化団体連合会会長、全日本学生競技ダンス連盟会長、日本健康医学会副理事長、実践総合農学会常任理事、日本醤油技術センター理事、醤油業中央公正取引協議会理事、他多数。
■受賞歴
平成9年度日本醸造協会技術賞、平成18年度、平成22年度および平成24年度日本健康医学会論文賞、平成21年度醤油技術賞、平成22年日本醤油協会功労賞









