| 柿澤 |
それでは簡単に今回の概要を説明させていただきます。和食というのは、私たちの中にいつも根底に流れているとても大切なもの、それは水や空気のようだったり、まるでそこにあることすら気づかなかったりすると思うのです。そんな和食に対してどのように感じているか、また海外の方がどのように感じているのか。海外に行かれたご経験を含めてお話しください。では、さっそくですが、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、それに関してはいかがでしょうか。

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| 髙橋(拓) |
お客様は和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたからといって、ご自分のみそ汁やご飯のつくり方が変わるわけでもないし、と思われるかもしれませんが、このことは日本の文化が世界に認められたということで非常に大きいことだと思います。そして毎日の料理を、ただ栄養を摂るとか、おなかが減ったから食べるということだけではなくて、日本人としてのアイデンティティを今一度考えるきっかけになったのではないかと思うのです。実は、昆布という食材は日本にしかありません。日本料理とは、昆布を使った料理なんですね。世界を見渡しても昆布は捨てたり、堆肥にしているわけです。昆布を使ってお出汁を取って、それを鰹節と合わせるというところが日本料理の特異性。日本の料理というのはそこが凄いなと。そこにちょっとしょうゆを落とすとさらにおいしくなる。そんな料理であるということを、皆さんが再認識されたということがとても大きいですね。

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| 中東 |
私は登録されてからの方が大変だと思います。登録されたということは日本の文化、日本料理だけではなく、日本人の精神が、世界に知れ渡ったのではないか、認められたのではないかと思っています。例えば、和食のまわりには、掛け軸や生け花があったりするのですが、そういうものも海外に普及していく。そのことで日本が世界に注目されて、もっともっと強くなっていくのではないかと思います。

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| 髙橋(義) |
世界の視線が和食に集まっている、という自覚を日本の皆さんが持ついい機会になったのではないかなと。私自身もそうですが、日本人は和食を食べ自分たちの体をつくってきた。それらが遺伝子に組み込まれているんです。それを次の世代に語り継いでいくということが、和食にとって大事だなあということを改めて感じました。

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| 柳原 |
今回のユネスコ無形文化遺産登録で柱になったものが四つあります。一つ目が「いろいろな食材の豊かさ」。日本はとても南北に長いですからさまざまな食材に恵まれています。そして次に「健康」。それから豊かな春夏秋冬があることによる「季節感」。最後の一つは「文化」です。日本の文化の中で面白いものは、例えばお正月料理を思い出してください。なぜおせち料理を食べるのかというと、例えば三つ肴だったら数の子、黒豆、そして田づくり。それぞれに願いを込めて食べるわけですよね、日本人は。そういうことは、海外の人たちはとても不思議に思うわけです。それは言霊(ことだま)であり、食べ物に願いを込める。そのことを私が海外に行って話すとかなり興味をもたれるところなので、もっとアピールしていきたいと思っています。

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| 柿澤 |
ありがとうございます。ところで皆さん、世界中に和食のレストランというのは何店舗くらいあるかご存知ですか。今、統計ですと5万6千店舗以上となっています。2006年、今から8年ほど前なのですが、その時には約半分くらい、2万6千店舗。今はその2倍くらい、急激な広がりですよね。 |
| 髙橋(拓) |
そうですね。その理由は、第一には食材の流通が良くなったということ。海外のイベントに参加させていただくと、昔と比べてものが良くなっているんです。食材の搬入もそうですし、運搬もそうですし、それから調味料関係もかなり充実してきています。日本料理の副食材までスーパーマーケットで揃うようになったということが大きいですね。 |
| 中東 |
私も昔、6年くらいフランスにいて、その時は日本人がきちっと料理をしている料理屋さんは4軒くらいしかなかったと思います。他は、ああ、日本料理屋さんやなぁって思ってのぞきましたら、明らかに日本人ではない人たちが寿司を握っていたり、うどんをつくっていたりとか。当時は、日本料理文化というものが海外に知れ渡っていなかったですね。それがいつしか日本料理がヘルシーであるとか、文化的であるとか、そういうことが海外に普及し始めるにつれ、どんどん食べる方のレベルが上がってきた。今では、世界中に良い日本料理屋さんがたくさんありますよね。 |
| 髙橋(義) |
うちのお店も最近、外国のお客さんがとても増えました。以前に比べると、とてもきれいに召し上がるのです。お刺身と言うたら海外に行くとサーモンとか鮪(マグロ)とかそういうものが多いのですが、日本では鯛(タイ)の活造り。うちでは活造りという形で身が硬直していないぷりぷりしたものを出すのですが、やはり最初はなかなか食べていただけなかった。それが皆さんきれいに全部召し上がるようになってきた、というのが実感としてありますね。

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| 柳原 |
日本料理の広がりというのを見るのに一番いいのは、しょうゆの消費量だと思います。海外に行くと、必ずスーパーマーケットに行くのですが、どんなところでもしょうゆはありますし、輸出量もどんどん増えていますよね。 |
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| 柿澤 |
ありがとうございます。海外から日本に来る観光客の方が期待する第1位が「食事」。また、海外の人からアンケートを取ると、好きなお料理は何ですか?という質問に「和食」が堂々の1位だそうです。このような海外の方の気持ちの変化、和食を受け入れられていることをどうお感じになりますか。 |
| 柳原 |
今、築地市場は、日本人より外国人の方が多いくらい。午前9時前までは一般の人は入ってはいけないことになっているのですが、9時を過ぎた瞬間に私たちが歩けないくらい外国の人たちがいる。生食文化にとても興味があるのです。また、大きな、200kgくらいの鮪がセリを待って転がっているっていうところなど、とても熱心に見学しています。お刺身を生でそのまま食べることは、外国の人たちは今まで持ってなかった文化なんです。今まで魚というものは生臭くてだめだったはずが、どんどん世代を重ねるごとに、お寿司を食べるようになって、和食のおいしさに舌がどんどん慣れてきている感じがします。外国の人たちの舌も成長しているように私は思います。 |
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| 柿澤 |
ありがとうございます。ところで和食というものを海外の人はどのようにイメージをしているのでしょうか。 |
| 髙橋(拓) |
取りあえず一番初めに「キレイ」という言葉はとても多く聞かれます。シンプルで、自然な雰囲気が出ているということをおっしゃいます。二番目には、あっさりしているのに味があると。それからオイルがほとんど使われていなくて、すべてが旨みの構成で料理がなされていておいしく感じられると。 それでは、ロシアのモスクワで行ったイベントをご紹介します。私はロシアに10年前にも行ったことがあります。食のイベントで、ちょうど3月18日の国際婦人デーでして、名だたるご婦人総勢70名くらいに懐石料理を出しました。その時は、食材も冷凍ものしかない。鱒(マス)は氷詰めのものがあったのですが、おなかが溶けているような状態やったわけです。それから10年後、素晴らしい立派な市場になっているわけです。とても整理されていました。ここは蛸(タコ)のブロック、ここは鯛のブロック、生簀(イケス)に伊勢海老やオマール海老やホタテ貝は泳いでいるわ、蛤(ハマグリ)までありました。日本料理は食材が多様であればあるほど、その幅が広がるので、食材が豊富なロシアでは、日本料理は急速に発展するな、とその時思いましたね。

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| 中東 |
私が肌で感じているのは、ヨーロッパ全体で今、柚子が爆発的な人気で、多くのシェフが使いたがっているということです。料理だけではなく、お菓子にも使われています。そういうこともあり、今では生の柚子をEUに輸出する事ができるようになったんです。それで生の柚子を日本人はどのようにして使うのか、という疑問が彼らにはあって、そのことを教えるために行ってきました。場所はスペイン。バルセロナのアバックという二つ星のレストランでした。そこのシェフたちは、柚子を単なる日本の食材だからとか、トレンドだから使うのではなくて、本当に柚子の香りというものに興味を持って、それを理解して使おうとしています。柚子の使い方で一番、簡単なのは、柚を摺って散らす振り柚子なのですが、そればかりでは面白くないということで、柚子のことについて色々なことを答えられないくらい質問されました(笑)。

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| 柿澤 |
この柚子について海外の人たちはどのように見ているのでしょうか。 |
| 柳原 |
海外の人は、香りということにすごく貪欲なんです。日本料理は旨みで構成していく事が多いのですけれども、海外では香辛料を多く使う。その中でやはり日本料理らしい香りというと柚子を使いたくなるんですね。しょうゆを使うと日本料理らしくなりますが、それだけじゃなくて香り、たとえば木の芽があり、柚子があるだけでも、日本料理らしくなるという、そういうシグネチャーになり得るものなので、もっと海外に自由に持っていけるようになってほしいです。 |
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| 柿澤 |
最後になりましたが、柳原さんはどちらに行かれたのですか。 |
| 柳原 |
私は中東のイスラエルに行ってまいりました。実はイスラエルのテルアビブには寿司屋さんが200軒、もう既にあるんですね。そこで寿司コンテストをレストラン対抗という形で行いました。今回で3回目「Kikkoman Sushi Master 3」という企画です。30数軒のイスラエルのスシバーやスシレストランの人たちが集まって競い合うのですが、会場にいるプレスやお客さんが、実際につくっている所を見ながら進行していくのです。30分の間にお刺身と巻物と、あとお寿司の3品をひとつのお皿に盛りつけるという、そういう内容でした。
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| 柿澤 |
ずいぶん盛大ですね。 |
| 柳原 |
本当に色々な国の方々が参加しています。アジアの方もいますし、現地の方もいますし、ヨーロッパから来ている方もいるという感じで、二人一組で参加しています。このSushi Masterで優勝するということは大変名誉なことだそうです。これが優勝者の作品です。このようにお刺身が奥の方にあって、手前に握り寿司、そしてその前に巻物があります。私がこの作品を選んだ基準は握り寿司の一個一個の大きさが同じで、衛生的というところです。つくっている様子も審査の基準になっていて、つくっている様子、盛り付け、そして味という三つで見るのです。今映っている彼が、優勝した若干26歳のイスラエル人のメイダン君です。彼にどのように寿司を勉強したのか聞いてみました。すると日本料理屋にはどこにも修業に行っていないのです。どうしたかというと、全部インターネット。動画サイトで寿司の握り方を見ながら、見よう見まねで勉強したそうです。
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| 柿澤 |
皆さん、海外でご経験をされた中で、海外の方から見た和食がどのように見られているか、お感じになられたと思いますが、それぞれ違う経験の中に共通項みたいなものはあるのでしょうか。 |
| 髙橋(拓) |
これからは切る技術というのが、どんどん海外に出ていくと僕は思っているんです。僕らは切ると炊くで「割烹」と言います。この二つの技術が半々で日本料理ができているんですね。私たちは右手で切りますけれども、左手にも同じくらいのセンサーがついているのです。 |
| 中東 |
私は、技術的なこともそうなのですが、まずは日本料理の構成の仕方についてです。今、海外のシェフたちも自然に目を向けていて、それらを料理にどう取り込んでいくかを考え始めています。日本料理の場合は直接的に、自然を感じることができるのですが、洋食の場合、これは自然から取り入れたのだ、と感じにくいところがあると思うのです。それらを克服すべく、自然を料理にどのように表現していくかということも、彼らが勉強していく事なのではないかと思います。 |
| 柳原 |
私が思う海外の人たちが感じている和食の魅力のひとつとしては、やはり魚の扱い方だと思います。お寿司がこれだけ世界に広がってきたというのは、氷があって発泡スチロールがあって、流通が良くなった。そういうことによって世界で食べられるようになったのです。でも、私たちはもうずっと前から、氷も何もない時代から生食をしてきた。そのひとつの理由は、やはり魚の上手な扱い方なのです。それが先ほど言いました築地がとても人気があるひとつの理由だと思うのです。例えば、ひとつの魚に対しても氷の使い方や、どういうふうに置こうかとかいうことですね。普通、魚は頭が左で、おなかを手前に置くじゃないですか。それだって魚の鮮度を如何に保持していくかということで、できたルールなわけですね。下身の方というのはどうしても内臓がありますし、魚の重さがかかります。だからそこから悪くなっていく。でも、運ぶ人とか売る人が必ず全部そういうふうに置けば上側の身というのは下側の身よりは鮮度が保たれるわけですね。そういう技術というものを、料理の包丁技だけじゃなくてもっと輸出するべきだと。それこそフランスなどに行くと「活けじめ」のような技術は、シェフの皆さんが興味を持たれます。日本では当たり前の技術が、海外ではすごくびっくりしてもらえるんです。 |
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| 柿澤 |
きっと、魚を扱う方の気構えのようなものが他の食材にもあるのでしょうね。それでは最後になりますが、一言ずつコメントをいただきたいと思います。 |
| 髙橋(拓) |
多分、海外から見た和食の魅力と国内で見る和食の魅力というのは違っていて、私たちはその使い分けをうまくしなくてはいけないと思っています。今回、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたのですが、まだまだ海外では日本料理というのは、ジャパンの未知なる料理なわけです。完全に日本料理を解釈されているわけではありませんので、そういったことを前提として日本料理を正しく伝えるということが大事だと思います。それから国内では、和食はやはり私たちのライフスタイル、食生活、生活体系に結びついていますから、この食が乱れるということは日本人の生活が乱れるということなので、生活を守る上でも食をつくっていくということが一番大事なことかと思います。 それから、フランス料理とかイタリア料理をつくった後の鍋の油。あれは洗う時に、結構洗剤を使わないと流れません。水を汚しますよね。日本料理というのは、油を使わないお出し主体なので、サっと洗えば水だけでも落ちるのです。洗剤も少ししか使いません。そのような利便性は、水を生活の中心においている日本人の生活として、環境にもやさしいですよね。それはやはり、日本料理が誇れることやと思います。

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| 中東 |
和食の魅力というのは、私の中では、自然といつも共存しているような感覚で料理をつくりあげていく、ということなのです。自然を意識するということは、自然環境を守るということにもつながっていくと思います。今、日本料理、和食というものが日本人から離れていっているというのは現実です。それと比例して自然環境も悪くなってきています。それは、日本料理をつくるために乱獲するのではなくて、意識して守っていく、こんなおいしいものが採れるのだから自然を守っていく、そういう考え方になっていくということが、これから日本料理が発展したり、いいもの、おいしいものをつくったりできる源泉ではないかと思います。今、海外に行くと現地のシェフたちは、日本の食材というものを非常に良質な、すごくレベルの高いものだと思い使っています。おいしさ、栄養においても同様です。それは日本の経済面においても非常に大切なものになってくると思います。日本料理というのは自然といつも共存している、自然を意識しているということで環境を守っていく。それによって、我々は本当に自然の中で健やかに過ごすことができる。そういった根本原理を今、世界の人々は見直しているのではないかなと思います。

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| 髙橋(義) |
どんな国の料理でもそうだと思うのですが、やはりつくる側と食べる側が必ず存在していて、そしてその両者の間では必ず無言のキャッチボールがあるのです。つくる側がどんなことを思って、どういうふうに食べてもらいたくて、どういうふうに料理したのか。食べる側は、どういうふうにつくる人が考えて出してくれたのか、これはどこでどうやって採れたのだろうか、どういう工夫があるのだろうか、どうやって食べたら一番おいしく食べられるのだろうか、といういろいろな思いをお互いにめぐらせているのです。それが家庭であったり、レストランであったり、料理屋さんであったり、いろいろなところで展開されるのですが、お互いにもっと想いをめぐらすことによってそこの料理が育まれていくと思うのです。

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| 柳原 |
私は、ユネスコ無形文化遺産に登録されて一番よかったのは、私たち日本人自身だと思います。これからもっともっと日本料理が発展していくと思うのですが、そのために必要なものというのは、やはり日本人一人ひとりの舌だと思います。舌、味というものは育てるものです。元々あるものではないのです。小さい時からいろいろな味のものを食べて成長していくのです。ただ、今はお母さんがつくらなくてもファーストフードやコンビニ弁当もあって、単一の濃い味だけでも育つこともできます。しかし、そういう子供たちが育って大きくなったら、味の分からない大人になってしまう。そうすると、いい料理屋さんに行ってもこんなものかとしか思ってもらえない。感動が少ないと思うのです。ですから僕は、やはり小さい時からの食の教育が大事だと思います。それはすごくいいものを食べさせて、高いものを食べさせてという意味ではなくて、例えば本当の出しを引いたいい香りのもの、ほうれん草のおひたしでも出しとしょうゆをちょっと合わせて浸けただけでもおいしくなります。でも、そのためにはほうれん草を上手に茹でましょう、しょうゆと出しの割合も考えてあわせましょう。そういう細かいことが、舌が育つトレーニングになっていくのです。これは子供だけではなくて、大人もそうだと思います。きょうは帰りに鰹と昆布を買って、おいしい出しを作ってください。 |
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| 柿澤 |
ありがとうございます。今日は皆さんと一緒に、本当に和食の魅力を探求できたかと思います。会場から出た時に和食が伝えられる自分であったり、和食がおいしくつくれる自分であったり、和食の魅力を感じていただければと思います。皆さんには「和食っていいね」と心から思えるような、そんな日々を毎日送っていただきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。パネリストの皆さんありがとうございました。 |