研究機関誌「FOOD CULTURE No.2」
映画『ヨーロッパの食文化』のトリは「木村尚三郎先生のシチリア食紀行」です
ー山崎博紹監督に聞くー
| Q | シリーズ『ヨーロッパの食文化』は、いよいよ最終巻の撮影に入るわけですが、今回俎上に載るのは美味しくて健康に良い、と今注目の南イタリア、それもシチリア料理。取りに相応しく監修の木村尚三郎先生自らレポーターを買って出られると聞いております。南国へのおさえがたい憧れとはゲーテの謂。先生もまた南方憧憬型。その先生の口を通してシチリア庶民の息災の知恵が展開されることは大きな楽しみですね。 |
| A | 映画の中の木村先生もまたゲーテの轍を踏んで、思い立つままにまっしぐらに、イタリアの空をさしてアルプスを越え、さらに弾みをつけてシチリアにやって来るわけです。シナリオ・ハンティングのとき、カターニアのリストランテのシェフに最初に質問されたことは、よりによってどうしてシチリアに?だった。評判の地中海式ダイエット(食事法)の本家本元を知りたくて、それに風景が美しいから、と通一遍の答えをしたのですが、そのとき彼は面白いことを言っていました。かつてローマ帝国時代、金持ちたちは美食のテーブルに憂身をやつした。しかしその後のイタリア人が選んだのは、きわめて健全な食生活です。それには多分、貧しさが原因しているのでしょう。この会話はそっくりプロローグで、あるリストランテの出来事として先生が紹介します。 |
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| Q | 地中海式ダイエットとはいえ、その素材は新鮮な魚介類、野菜、パスタといった具合に、基本的には日本の料理と同じですね。 |
| A | 今日のシチリアの台所を知るためには、メルカート(市場)に行って見ることです。豊富な海の幸山の幸を見るに、たしかに日本と同じような素材です。しからばその調理法は、というわけで、先生はエトナ山麓のある村の家庭料理に挑戦します。ラグー(ミートソース)を作ったり、パスタを茹でたり、野菜を炒めたり、奮迅の活躍をします。その過程で、とりわけカメラの対象となるのは、ふんだんに使われるオリーヴ・オイル。オレイン酸とビタミンEを多量に含んでいると話題ですね。さらにパスタ。これは小麦粉と水だけで塩も加えない自然食品。加えて緑黄色野菜、低脂肪のナチュラル・チーズ、食事の伴侶のワイン。そしてあくまでもその素材の持ち味を損なうことなく引き出す調理法。これが健康に良いと注目のシチリアの郷土料理であり、地中海式ダイエットの原点なのです。 |
| Q | シチリアは地図を広げると、ヨーロッパからも、アフリカ、アジアからも目路(めじ)の距離にあり、そのかみからカルタゴ、古代ギリシア、ローマはじめ、さまざまな支配者をむかえている。それだけに多様な文明が行き交い、食文化にもその影響が見てとれるでしょう。 |
| A | 顕著に見られるものにドルチェ(菓子)があります。蜂蜜入りのヌガーの「クバイタ」、アイスクリームの「カサタ」、ドライフルーツ、アンズやゴマ、シナモンなど、これらの出自は9世紀から11世紀にかけてのアラブです。おそらくこの映画を見る人たちは、ヨーロッパ料理の流れが千年前の地中海に先祖返りしていってる観を持つでしょう。 |
| Q | 遥かな時代の地中海の食文化が、21世紀の食膳を賑わすとは。 |
| A | 木村先生は、この映画の中で、食事をするときの気持ちの良さについても言及します。21世紀のテーブルにとって大事なことは「共食」、つまり集い楽しみつつ美味しく食べよう、ということです。19世紀の都会のテーブルは、一人一人が自由に食べることに限りなく寛大でした。テーブルは個人の領分となり、このときからテーブルの近代が始まったのです。しかし21世紀のテーブルは、美味しくて健康に良い食事を皆でしようじゃないか、となっていくのです。 |
| Q | シナリオでは、先生はあの恐ろしい一眼巨人キュクロプス(ホメロスの「オデュッセイヤ」に登場)から馳走のもてなしをうけることになっていますね。大丈夫ですか? |
| A | キュクロプスの仕事場はエトナ火山の地下です。火山の噴火と大地震で、古典時代のシチリアの街はすっかり壊滅してしまいました。しかし豊富な食材は、この山の伏流水がもたらす大いなる恵みなのです。映画の中のキュクロプスとは、地元のスキューバ・ダイバーたちの懇親会の名称。それが楽しい集いであるため、いつのまにか大きなパーティになってしまったのです。食べ物から会場のセットまですべてメンバーの手作り。ここに先生は招待されて、いい人、いい味、いい話で、21世紀のテーブルを堪能するのです。そして、21世紀は、このようなラテン的生き方こそ大事、と先生は総括します。映画は、8月初めに完成。 |
キッコーマンライブラリー
映画『ヨーロッパの食文化』(全5巻)
監督・脚本 山崎博紹
監修 木村尚三郎
企画 キッコーマン株式会社
キッコーマン国際食文化研究センター
2000年秋公開
KIKKOMAN Library,Motion Picture “Food Culture”(Volume1 to 5)





