研究機関誌「FOOD CULTURE No.2」
醤油は食文化の交流段階から融合・フュージョンの段階へ
日本の食文化を考えるフォーラム「A Taste of Health:Exploring Japanese Food Culture」が1999年12月2日から4日までの3日間、ニューヨークのジャパン・ソサエティーにおいて開催されました。会場となったジャパン・ソサエティーのオーディトリアム(250人収容)には、日本の食に関心のあるニューヨークの方々が多数集まり、活気あふれるものとなりました。今回はフォーラムの模様と講演の内容をご紹介します。
日米両国の友好を深める
フォーラムの初日は、「醤油と日本の味の国際化」をテーマとし、ジャパン・ソサエティーのウィリアム・クラークJr.理事長の司会によって始まりました。続いて協賛であるキッコーマン国際食文化研究センターを代表してキッコーマン株式会社茂木友三郎社長が次のようにスピーチを行いました。
「キッコーマンは創立80周年を記念して、1999年10月、発酵調味料・醤油を基本とした研究活動、文化・社会活動、情報の収集・公開などの活動を目的とする『キッコーマン国際食文化研究センター』を設立しました。同センターの設立を記念して行うイベントの開催地として、世界の文化と食の集積地であるニューヨークは最適な場所であり、自分がコロンビア大学で学んだことと合わせ、私の第二の故郷でもあるニューヨークでこのような催しに協賛できることは喜ばしいことです。
キッコーマンはここ数十年にわたり、醤油を通じて日本の食文化を世界中に広げてきました。今やウエブスター英語辞書には「テリヤキ」という言葉が載るまでになっています。現在では、世界百カ国以上に醤油を輸出するまでになり、古典的なフランス料理にも醤油が使われていることも良く知られています。米国でも日本と同じように日常的に料理に醤油を使っていることを考えると、醤油は食文化の交流の段階から融合(fusion)の段階に達しているのではないでしょうか。今後ともこれら食文化の融合を通じて日本と米国の友好を深めることができればこれに勝る幸せはありません」
「醤油は肉と相性が良い」
続いて醤油の歴史と製造工程を紹介したビデオ(英語版)の上映のあと、『キッコーマン物語(Kikkoman Chronicles)』(米国マグローヒル社刊)を著したイリノイ州立大学教授のロナルド・エーツ氏が茂木社長に、醤油のこと、キッコーマンのこと、米国への進出と国際化、茂木社長自身のことなどを、インタビューするという形で対談が行われました。ジャーナリスト出身であるエーツ氏のリードで、日本での醤油の起源や、17世紀初め、茂木家の女性が野田に移り住み、醤油づくりを始めたことなどが話題となりました。また、驚くべきことに、日本人の醤油の消費量は1人年間10リットルで、日本酒とほぼ同じであり、いかに日本人の食と深く結びついているかなどが茂木社長によって紹介されました。また、なぜ醤油が米国で受け入れられると思ったかについては、醤油そのものが肉料理と相性が良いこと、また自らがコロンビア大学の学生時代にスーパーマーケットで行った醤油のデモンストレーションで、消費者のポジティブな反応を見たことなどが披露されました。そしてそれが「テリヤキ」を生み、バーベキューや他の料理にも使われるようになり、米国での醤油の使用量の増加を促していった、と述べました。
エーツ氏はキッコーマンの創始者が女性であることに興味を示し、当時の日本ではもちろんのこと、今でも女性の創始者は珍しいのではないかと感想を述べました。そして、さらに茂木社長は、1765年に完成したフランスの有名な哲学者ディドロによる百科全書に「醤油は肉によく合う」と記述されていることも紹介しました。ユーモアあふれる語りで、会場は笑いのうずに包まれました。最後に茂木社長は「人は誰でも食べる。だから食文化は最も文化交流がしやすい。そしてその日本の食文化の中心をなす一つが醤油である」とその信念を語りました。
高まる日本食への関心
さらに弁護士出身という経歴を持ちながら、フュージョン・レストランも経営していたフードコンサルタントのバリー・ワイン氏により、日本食や世界の食文化の潮流についてのまとめの講演が行われました。スピーチの内容は示唆に富み、多岐にわたりましたが、日本文化あるいは日本食については次のように述べました。
「日本の影響は、ファッション、インテリア、箸や酒といった食卓などいたるところに見られます。マンハッタンの住宅の最上階には茶室があったり、いたるところに日本庭園があったり。さらにはお弁当箱が買えたり、日本の炭はこの冬、クリスマスのギフトにもなっています。現在、私たちはかつてないほど長時間働き、しかも、インターネットの速さで働き、リラックスする時間はほとんどありません。ですから私たちは、生活の中に落ち着きやシンプルさを求め、日本に関連した事柄にあこがれを持つのです。中でも日本料理は、落ち着いて、透明感のある文化に触れる機会として好まれているのです。
アジアの食文化を知る上で、私たちはもっと日本について学ぶべきですが、その距離の遠さや円が高いこと、言葉の困難さのせいで日本にはなかなか行けません。ですから、日本から多くの先生がアメリカに教えに来て、アメリカの料理人に日本に行くように勇気づけてほしい。キッコーマン国際食文化研究センターはそういう面で大きな役割を担っているし、同センターを通じてアメリカの料理人に日本の食文化を教えていただきたいものです」
ワイン氏の講演の最後に、このシンポジウムに登場した茂木社長、エーツ氏、ワイン氏の3人全員が壇上に上がり、会場からの質問を受けました。質問には、アメリカの醤油と日本のでは味が違うのか、発酵調味料はなぜ健康にいいのか、など活発な質問がありました。
シンポジウムのあと、レセプション会場に移り、歓談と日本食を楽しみました。たくさんのニューヨーカーたちが枝豆、たまごやき、肉団子、エビのからあげなど、醤油を使ったフュージョン風料理に舌鼓を打っていました。
3日間にわたる食文化フォーラムは、醤油をはじめとする日本の食文化への理解をさらに深めることができました。これからもキッコーマン国際食文化研究センターでは、日本の食の原点である醤油と発酵調味料、そして世界各地の食文化の研究をさまざまな視点で続けていきます。
(キッコーマン社長)
(イリノイ州立大学教授)
(フードコンサルタント)
A Taste of Health:Exploring Japanese Food Culture
主催:ジャパン・ソサエティー
協賛:キッコーマン国際食文化研究センター
12月2日(木)
Flavor & Its Origins: The Story of SoySauce
- 歓迎挨拶:「ジャパン・ソサエティー歓迎挨拶」ウィリアム・クラークJ r(ジャパン・ソサエティー理事長)
- 冒頭挨拶:「キッコーマン国際食文化研究センターの設立について」茂木友三郎(キッコーマン社長)
- ビデオ上映:「キッコーマン醤油とその国際化」
- 対談:「キッコーマンと醤油物語」茂木友三郎(キッコーマン社長)、ロナルド・エーツ(イリノイ州立大学教授)
- 講演:「ニューヨークの日本食― 懐石からフュージョンまで」バリー・ワイン(フードコンサルタント)
- レセプション:「醤油を多用したフュージョン風のおつまみと飲み物」
12月3日(金)
Fusion Sushi & Beyond
- ワークショップ:「フュージョンすし」
山本道子(村上開新堂)
場所:ニューヨーク大学
12月4日(土)
Journeys into Japanese Culinary Arts& Nutrition
■日本食文化公開シンポジウム
- 講演:「日本食は調味料文化」
熊倉功夫(国立民族学博物館教授)
マーチン・コルカット(プリンストン大学教授) - 講演:「東西の食のパターン」 シドニー・ミンツ(ジョンズホプキンス大学名誉教授)
- パネルディスカッション:「日本の食材と健康」
熊倉功夫(国立民族学博物館教授)
マーチン・コルカット(プリンストン大学教授)
シドニー・ミンツ(ジョンズホプキンス大学名誉教授)
エリザベス安藤(日本食研究家)
マリオン・ネッスル(ニューヨーク大学教授)
山本道子(村上開新堂)
■日本食ワークショップ
- 「醤油を用いた日本の味付け」山本道子(村上開新堂)
- 「みその使い方と味見」エリザベス安藤(日本食研究家)
- 「日本のお茶― 煎茶の味と健康」小川後楽(小川流煎茶道家元)





