研究機関誌 「FOOD CULTURE No.31」組合の取り組みから見たしょうゆの現状について
組合の取り組みから見たしょうゆの現状について
「しょうゆ」の減少と「しょうゆ加工品」の増加
2019(令和元)年、日本の「しょうゆ」の年間出荷量は744,263klである。これは統計を取り始めた1961(昭和36)年以降で、最も出荷量が多かった1984年の1,294,155klと比較すると6割にも満たない量である。この間日本の人口は、約1億2千万人で大きく変化していない。「しょうゆ」の使用量が減っているのだ。
一方、だししょうゆ、めんつゆ、タレ類などのいわゆる「しょうゆ加工品」の出荷量は、2003(平成15)年の出荷量221,433klから2019年までの約15年間で320,164klと、4割強も増加している。マヨネーズやソースなどの洋風調味料への移行はもちろんあるが、「しょうゆ」から「しょうゆ加工品」使用への移行が少なからず起こっていることが推測される。
実際、スーパーマーケットのしょうゆ販売コーナーでは、「しょうゆ」に代わり鰹しょうゆや昆布しょうゆなどの「しょうゆ加工品」が広く、普通に並ぶようになってきた。また、消費者が、しょうゆ売り場で当たり前のように「しょうゆ加工品」を選んでいる姿も見かける。
「しょうゆ」の減少要因にJASが?
現在、しょうゆの業界団体には、大手五社と全国のしょうゆ事業者のほとんどが加入している全国醤油工業協同組合連合会(以下、「全醤工連」という)を会員とする任意団体である「日本醤油協会」(以下、「日醤協」という)と、中小企業等協同組合法に基づく「全醤工連」がある。それぞれの組織は、1962(昭和37)年に設立された。
その翌年には、現在のJAS法の前身である「農林物資規格法(昭和25年法律第175号)」の下で「しょうゆの日本農林規格」が制定され、全醤工連がJAS格付けを行う登録格付機関となった。各都道府県の組合は格付事業所として、JAS規格の検査やマークの管理を行うこととなり、しょうゆ業界を挙げてJAS制度に取り組むことになったのである。
当時、全国で約3,300工場あったほとんどすべてのしょうゆ製造業者がJAS認定工場になったと記録されている。当時の記録では、農林大臣宛てのJAS申請書類を積み上げると約99メートルの高さとなり、醤油会館の会議室がすべて書類で占拠されていたと記載されている。
1965年には、全国のしょうゆ工場数が約4,400工場、そのうち、8割以上の事業者の年間生産量が180kl以下であり、上位3,000社以上がJAS認定工場であったことを考えると、国内で流通するほとんどのしょうゆにJASマークが付けられ全国で使用されていたことが想像できる。
当時のJAS規格における「しょうゆ」とは表1の通りで、現在のしょうゆの定義とほぼ同じ内容が記載されている。法律的な「しょうゆ」の定義が定まることとなるが、当時の規格書の解説を読むと、「生産量のわずかなさいしこみしょうゆとしろしょうゆは将来相当の数量になった際に規定を設けること」とされており、後にこいくち、うすくち、たまり、さいしこみ、しろ、の5種類のしょうゆがJASの対象となる。
さらに解説では、「ここに掲げられた定義は完全なものではなく、主たる製造工程を述べただけである」「地方的には幾多の異なったしょうゆがあると想像されるが、それらは地方検査員の判断でいずれかの範囲に入れられたい」と記載されている。
第2条 この規定において、しょうゆはそれぞれ次の通りとする。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| こいくちしょうゆ | 植物たん白質及び炭水化物をこうじ菌酵素により分解し、はつ酵させ,及び熟成させたもの又はこれに植物性たん白質の塩酸による加水分解液を混合したもので、色沢の濃化を抑制しない清澄な塩味を有する液体をいう。 |
| うすくちしょうゆ | 植物たん白質及び炭水化物をこうじ菌酵素により分解し、はつ酵させ,及び熟成させたもの又はこれに植物性たん白質の塩酸による加水分解液を混合したもので、色沢の濃化を抑制した清澄な塩味を有する液体をいう。 |
| たまりしょうゆ | 植物たん白質を主原料とし、これをこうじ菌酵素により分解し、はつ酵させ、及び熟成させたもの又はこれに植物性たん白質の塩酸による加水分解液を混合したもので、色沢の濃化を抑制しない清澄な塩味を有する液体をいう。 |
この当時定められた「しょうゆ」の定義は、現在もなお継続されており、植物由来の原料以外を認めず、原料のすべてを麹とし、発酵・熟成し得られた清澄な液体調味料であるとされている。また、これには、アミノ酸液(植物性たん白加水分解物)を加えることができるものとされ、現在の「混合醸造方式」や「混合方式」を規定している。
このため、旨味の追加や調理の簡便化等のため鰹節、昆布などのだしを加えたもの、牡蠣しょうゆなど動物性の原料を使用した商品は、たとえ用途は「しょうゆ」と同じであっても、また、商品名に「◯◯しょうゆ」と言いながらも、その食品表示基準の定める義務表示事項における名称は、「しょうゆ」とは記載できない。
しかしながら、スーパーマーケットのしょうゆ売り場や「大豆油糧日報」で毎月公表される「しょうゆPOS売れ筋ランキング(ベスト50)」の2割以上の商品には、昆布しょうゆや牡蠣しょうゆなどの「しょうゆ」ではない「しょうゆ加工品」が並んでいる。
JASの定義が定める「しょうゆ」は、消費者が考える「しょうゆ」とは異なりつつあるのかもしれない。 なお、農林水産省の発表する「しょうゆ」の生産量統計には、「しょうゆ加工品」はカウントされていない。これが「しょうゆ」の生産量減少の一因であるとは言えないだろうか。
ちなみに、みそにJAS規格は定められていないが、食品表示基準の「みそ」の定義においては、だしを加えても「みそ」と分類されている。ここには、2つの業界の考え方の違いがあるものと思われる。
しょうゆとみその業界の違い
みその業界団体として全国味噌工業協同組合連合会が組織されている。連合会への加入企業は1,080社、全国のみそ製造業者が約3,000社であることから、約3分の1の加入率となる。しょうゆの組合への加入率が8割を超えていることと比較すると、みそ製造業では組合員外の事業者がより多いことがわかる。
また、JAS発足当時から業界全体でJASに取り組んだしょうゆ業界と、積極的に取り組まなかったみそ業界を考えると、当時より業界全体での活動を優先するしょうゆ業界と個々の事業者の活動を優先するみそ業界の両者の考え方の違いが表れていたのかもしれない。
考え方の違いの優劣についての評価はできないが、その違いは、2021(令和3)年6月から施行される、すべての食品関連事業者に対するHACCPに沿った衛生管理が義務付けられる食品衛生法の一部直しに対する業界の対応にも見られる。
しょうゆ業界では、HACCPへの取り組みに関心のなかった小事業者も含め、すべての事業者が対応可能となるよう厚生労働省の指導のもと、HACCP導入支援のための手引書として「しょうゆ製造におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」(以下、「手引書」という)を作成し、すべての組合員企業に配布している。
また、全組合においては、手引書を指導する指導員を配置し、一般衛生管理と手引書に基づく管理の実施について、全事業者が参加するよう講習会と個別指導を行っている。なお、2020年4月に完全実施された表示の大幅な改正への対応においても「しょうゆの表示テキスト」を作成し、全組合員企業に配布、全組合に配置した表示指導員を通じて、ラベルの登録と確認及び変更のための個別指導を行っている。
以上の事例のようにしょうゆ業界では、常に業界全体が参加して取り組むことが業界運営の特徴といえるのではないかと思われる。
このことは、1965(昭和40)年当時の中小企業近代化促進法に基づく構造改善事業において、全国で生揚げの協業工場を設立したことにも見られる。その結果、しょうゆ全体の品質向上につながり、合わせてJAS規格も引き上げられている。
一方、みそにおいてもJAS規格制定の検討が行われ、規格案が検討されたことがあった。しかし、当時のJAS制度の一つである表示ルールを定めた「みそ品質表示基準」は策定されたが、みその原材料や品質指標を定める「みその日本農林規格」については、制定されることはなかった。
当時の検討状況を農林水産省OBに聞いたところ、例えば同じ米みそであっても、地方やメーカーで品質にバラツキが大きく全国統一での規格値による一定の線引きが困難であることもあり、業界も統一化することに反対の声が大きかったとのことであった。そのため当時、JAS規格と品質表示基準がセットで制定されることが原則のJAS制度にあって、唯一品質表示基準のみが告示されることとなった。
業界の全体的な取り組みの問題点
組合全体での取り組みの問題点をあえて考えるならば、いくつかの点で現在と異なる未来になっていたかもしれない。
一つは、JASへの全体的な取り組みに関してである。JAS規格の5品種、3製造方式ですべてのしょうゆの特徴を説明するのと比較し、あえてJAS規格を作成しなかったみその現在を考えると、米みそ、豆みそなどの種類だけでなく、同じ名称の米みそであっても、信州みそ、仙台みそなど地域的特徴を謳ったものが多数あるみその市場に近い現状になっていたかもしれない。みそはより特徴を持ったものが多く市場に存在するように感じられる。市場に異なる分類が多数あることで、消費者の選択肢が広がり、また、それぞれの事業者は、その違いをこだわりとして消費者に分かりやすく伝えることが可能となっているのではないか。
また、JAS規格では、使用できる原材料を最低限に限定することを基本とするため、しょうゆでは、新しい食品原料や添加物を追加することは困難である。しょうゆの組合員の多くがJAS規格に従っていたため、しょうゆ加工品に使用されている昆布や鰹節などのだしなどの風味原料を新たに「しょうゆ」の定義に含めることは困難であった。ちなみに、みその定義において、だし類使用が含まれることと比較すると、「しょうゆ」は新たな市場へと定義を拡大していくことは困難であるものと予想できる。
その結果、「しょうゆ」は、消費者の求めに応じてだし類を「しょうゆ」に追加するのではなく「しょうゆ加工品」として区別し、その市場が拡大していることは前出の通りである。
現在、業界に置かれている状況
現在、国内での「しょうゆ」の生産量の減少と反対に、海外への輸出や海外生産量は増加している。2019(令和元)年には、日本からの輸出は71カ国、約37,000klとなり1989(平成元)年の53カ国、約8,000klと比較すると、30年間で輸出量は約4.5倍にも増加している。世界に通用する商品としてのしょうゆの魅力はもちろん、キッコーマン社をはじめ海外での積極的な事業展開の成果であるものと考える。
2013年の和食のユネスコ無形文化遺産登録以降、海外での日本食レストラン店舗数の増加は目覚ましいものがあり、その後も増加し続けている。例えばタイの日本食レストランの店舗数の推移にあっても、2020年には4,094店舗と2013年当時の1,806店舗と比較すると2倍以上に増加している。
また、2020年の前年比の増加率を見ると首都バンコクが5.6%増なのに対して、地方が21%増と、最近では地方への日本食レストランの広がりが見られた。併せて「しょうゆ」の市場も主要都市から地方への広がりへと進むものと考えられる。
実際に、タイの多くのスーパーマーケットの店頭においても、日本の本醸造しょうゆが必ず並んでいる。
新JASの展開
現在、日本の「しょうゆ」が海外へと広がりを見せるなかで、海外のスーパーマーケットの店頭では、日本のしょうゆメーカーの商品と並び、海外のメーカーの商品でありながらも、大きく「日式」「特選」などと日本語で記載され、あたかも日本のしょうゆであるかのようなラベルで安価に販売している場合がある。実際の商品を見ると日本の一般的なしょうゆとは異なる風味や製造方法であったりする。
このような状況は、1998(平成10)年にCODEXへの日本しょうゆの規格提案が「海外製法のSoy sauceとの差別化が困難」との判断から取り下げられた当時より混沌としてきているように思われる。
現在、日本の「しょうゆ」の定義は、食品表示法とJAS規格で定めたものが法的な定義となっている。この内容は、1963(昭和38)年の最初のしょうゆのJAS規格の定義とほとんど変わっていない。また、現在のしょうゆの定義である「食品表示法」及び「JAS法」が日本国内の法律であることを考えると、海外の市場において、日本のしょうゆと比較して問題のある表示であっても、法律の適用や罰則も受けることはない。
2017年のJAS法の改正のテーマは、「競争力強化につながる多様なJAS規格の制定」である。その内容は、これまで、規格の対象をモノ(農林水産物・食品)の品質に限定してきたのを改め、モノの「生産方法」(プロセス)、「取扱方法」(サービス等)、「試験方法」などにも拡大対応をしている。併せて、産地・事業者の強みのアピールにつながるJASが制定・活用されるよう、改正案を提案しやすい手続きを整備している。(図2)
この改正に対して、しょうゆ業界においては、競争力の強化として、以下2つの目的を掲げ新たなJAS規格の策定を協議している。
- 1国内において減少、さらには消滅の危機にある伝統的な製法を守る小規模事業者の伝統的製法を顕彰し、将来につなげる一助とするための提案
- 2日本しょうゆが法的に明確な製法定義がない状態にあり、海外の製法に対して日本のオリジナルな製法の違いを法的な背景を元にし、その違いを明確にアピールできるための提案
今後、しょうゆ業界の運営においてもJAS規格は、「しょうゆ」の足枷になるのではなく、戦略的に活用できる枠組みの一つとして利用していくべきものと考え期待している。

1964(昭和39)年、前回の東京オリンピックの年に埼玉県に生まれ、東京農業大学で醸造の魅力に触れしょうゆに関わり昭和、平成、令和と三世代を経てきました。しょうゆの長い発展の歴史と比べたらほんの一時ですが、食べ物としての魅力と製造技術の巧みさにすっかり魅了されています。2021(令和3)年、二度目の東京オリンピックの年、(財)日本醤油技術センター理事として、JASを通じてしょうゆの持つ魅力を少しでも伝える手助けができればと日々格闘しています。






