研究機関誌「FOOD CULTURE No.3」くらしの中の大豆発酵食品

大豆はタンパク質、脂質を多量に含んでいることから、栄養価が高く、「畑の肉」とも呼ばれるほど貴重な食品です。本来は冷涼を好む作物で、中国や日本などアジアの限られた地域で栽培されていましたが、米国で大規模に栽培されて以来、世界中に広がり、今では南米、アフリカなど熱帯地域でも盛んに栽培されています。
日本では製油用のほかに、しょうゆ、味噌、納豆などに代表される発酵食品や、豆腐・油揚げ・豆乳・煮豆などの加工食品、あるいは茹(ゆ)でて直接食べる枝豆といったように大豆の高度な利用が進み、米とともに日本人の食生活を支える貴重な存在となっています。
最近、大豆はその栄養価が見直され、動物性タンパク質に匹敵するタンパク質であることが明らかとなりました。さらに、大豆中に、ガンや成人病、慢性病に対する予防効果があることが科学的に証明され始めています。大豆を発酵させるという工程を経ることにより、体に有用な機能性成分をも生み出すという事実も解明されてきました。
大豆発酵食品は、南北に長い日本の地形がもたらす各地域の気候や風土に左右されながら、地域ごとに独特の味が作られています。さらにアジア各地にはテンペ、キネマ、ジャンなどさまざまな大豆発酵食品があり、自然の素材をそのまま活かして食するという、アジアの食文化の原点ともなっています。
日本人の毎日の食卓に欠かせない食品であり、最近の健康志向から世界中で注目されている東洋の伝統的な食品――大豆発酵食品について歴史・製法・特徴などをご紹介します。

執筆:キッコーマン国際食文化研究センター

しょうゆ

日本で「醤油」という文字が使われたのは、室町時代(1336―1573)中期以降と言われています。日本しょうゆの製法が完成したのは、江戸時代(1603―1867)前期と言われています。さらに、今日の原料である大豆と小麦を組み合わせて用いる製法は、江戸時代後期に定着したと言われています。
しょうゆ造りには、「麹」をつくるというとても大事な工程があります。麹は、蒸した穀物に微生物である麹菌(麹カビ)が繁殖してできたもので、発酵食品を製造する上で重要な原料です。昔から日本には麹があったからこそ、この国の食文化はとても特徴のある育ち方をしてきました。しょうゆ・味噌・日本酒・焼酎・味醂・甘酒・米酢・ある種の漬物・酒饅頭、などといったわが国を代表する伝統的な発酵嗜好食品は、麹が原料となって醸(かも)されてきました。つまり、日本の食文化は麹なくしては語れないほどです。
しょうゆ麹菌は、タンパク質分解酵素とでん粉分解酵素を多く生産する麹カビが使われます。
さて、蒸した大豆と炒った小麦を混ぜて、それに種麹を加えたものが「しょうゆ麹」です。このしょうゆ麹に食塩水を加えたものが「諸味」です。この「諸味」の中では、大豆のタンパク質は多くのアミノ酸に、小麦の糖分は主にブドウ糖にまで分解されます。また、諸味の中では、塩に強い乳酸菌の活躍により乳酸発酵が起こり、乳酸をつくります。次に、塩に強い酵母の働きによりアルコール発酵が起こり、300種類以上の香気成分を生み出します。諸味の中では、アミノ酸と糖成分の反応によって、おいしそうな褐色系の色が少しずつついて、諸味が熟成してきます。
さらに「火入れ」により殺菌と色の調整をすると、新鮮な香ばしい焙煎の加熱香気である火香が生じてきます。日本しょうゆの香りの中には、バニラエッセンスの主成分であるバニリンや、ウィスキーやコーヒーなどの気持ちのよい燻(いぶ)し臭や、ブランデーに近い香りなども含まれております。花や果実の香りもあり、日本のしょうゆはとてもスパイシーで国際的な香りをもっています。このため、しょうゆは肉とたいへん相性がよいわけです。とくに、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味という5つの基本の味をもった万能発酵調味料と言われるゆえんです。
江戸時代の代表的な料理である天ぷら・そば・うどん・蒲焼(かばやき)・佃煮(つくだに)や寿司などは、良質な日本しょうゆができて以後普及し始めて、今日にいたっています。また近代に入っては、すき焼や焼き鳥といった料理にも、しょうゆが味付けの主役となって、今日にいたっております。一般の人々のさまざまな日常の料理である野菜・豆・芋の煮つけや漬物などにもしょうゆが生かされ、わたくしたちの食生活を豊かにしてきたのです。
また、昨今では、液体のしょうゆばかりではなく、粉末状・顆粒(かりゅう)状しょうゆも使われています(写真参照)。粉末状・顆粒状しょうゆは、粉末スープ類、粉末調味料類、冷凍食品類、菓子類、畜肉加工類や液体調味料類などの用途でも使われています。
日本のしょうゆはオランダとの長崎での貿易を通じてヨーロッパに輸出されていました(写真コンプラ瓶参照)。1772年にフランスで完成したディドロ編纂『百科全書』には「しょうゆ」の項目が設けられており、日本しょうゆの優れた品質が紹介されています。
現在、日本のしょうゆは、食文化の国際交流の段階から今やフュージョン(融合)の段階に入っています。ベジタブルピッツア、テリヤキサーモンやしょうゆ風ステーキ、サラダドレッシング、そしてオール・アメリカン・ミートローフにいたるまで、さまざまな料理に生かされています。さらに今後、いろいろな世界の料理にも応用されていくことでしょう。(浜野光年)

三代広重『大日本物産図会・下総国醤油製造之図』
(キッコーマン株式会社蔵)
一般的なしょうゆの製造工程
粉末しょうゆ
インスタントラーメンのスープなど加工食品の原料として用いられています。
しょうゆ容器の変遷
参考文献
  1. 1Yokotsuka, T. and Sasaki, M. “Fermented Protein Foods in the Orient: Shoyuand Misoin Japan.”
    Microbiology of Fermented FoodsEd. Brian J.B. Wood, Blackie Academic & Professional. (1985): 351-415.
  2. 2Fukushima, Danji “Industrialization of Fermented Soy Sauce Production Centering around Japanese Shoyu.”
    Industrialization of Indigenous Fermented Foods. Ed. K. H. Steinkraus, Marcel Dekker, Inc. (1989): 1-88. )
  3. 3Hamano, Mitsutoshi “Water Activity and Water Behavior of Soy Sauce, Dehydrated Soy Sauce and the Improvement on Hygroscopicity of Dehydrated Soy Sauce.” Developments in Food EngineeringProceedings of the 6th International Congress on Engineering and Food. Ed. T. Yano , Blackie Academic & Professional. (1994): 179-181.
執筆:木内幹(共立女子大学家政学部教授)

味噌・納豆

はじめに

我が国では、仏教の影響で長い間、動物性食品としては魚類以外の肉食が困難でありました。そのため、蛋白質成分は大豆を上手に利用して摂取することによって得られてきたのです。
味噌も納豆も、もとは中国から伝来した食品といわれていますが、各地にユニークな大豆食品が普及し、伝来してから1000年以上も経った現在では、すっかり我が国の伝統食品として定着し、製法・容器・利用法が多種多様になっています。
納豆は大豆を丸のまま利用し、納豆菌1種類だけによる発酵で製造されるもので、製品も全形をとどめています。味噌は、乳酸菌・酵母・麹菌の作用によって発酵し、大豆の形は一部とどめていますがペースト状です。ここでは、我が国における暮らしの中の味噌と納豆について述べてみます。

味噌
暮らしの中の味噌

我が国の味噌は、全国各地で自家醸造されており、「手前味噌」という言葉があるほどです(図1)。
いろいろの種類がつくられていますが、普通味噌と加工味噌に分けられます。普通味噌の原料は大豆・塩・水と米または麦です(表1)。一般に米または麦で作る麹の割合が高いと、色が白く甘い味噌ができ、大豆の割合が高いものは褐色で辛口味噌になります(図2-1、2-2)。豆味噌の原料にはほとんど米や麦を用いず、窒素含量が高いので、味が濃厚で旨味が強くなっています。みそ汁を作るときに2種類以上の味噌を調合したものを合わせ味噌と呼び、個性のあるみそ汁を作ることができます。特に豆味噌を他の味噌に調合したものを赤だし味噌と呼んでいます(写真1)。
特殊な味噌としてカルシウム・ビタミンA、B1、B2などの栄養素を強化した栄養強化味噌、食塩含量を減らした減塩味噌なども、医療食として利用されています。
味噌の利用法として最も多いのが味噌汁です。味噌汁はどこの家庭でも作っていますが、その基本的な材料は味噌・だし・実・薬味で、おいしい味噌汁を作るには、それらの材料の適切な選択、調理法、お椀のよそい方が重要となります。味噌と材料にはそれぞれ色・香り・味・物性などに違いがありますので、適切な材料を選択します。
実には豆腐・ワカメ・なす・ねぎ・さといも・油揚げ・アサリ・シジミ・もやし・なめこなど、季節や場所によっていろいろなものがあります。だしの材料には鰹節・煮干しや昆布のような海草などが使われています。
味噌はまた、味噌漬けの原料として使われています(写真2)。材料の野菜等はそのままかまたは前処理した後、味噌に山菜やダイコンを漬け込みます。また、味噌に魚や肉類を漬け込むこともあります。味噌漬けは食事の時のおかずや酒の肴として利用されます。
なめ味噌には脱皮大豆・大麦・野菜・塩に、さらにトウガラシとショウガを混ぜて発酵させたひしほ味噌や中国から伝来した金山寺味噌があります。また、タイ・ハマグリ・エビ・鶏などやダイズ・ゴボウ・ユズ・海草・ナッツと砂糖・水飴・調味料および香辛料を加えて煮たり練ったりして作る加工なめ味噌もあります。
最近は乾燥した味噌や、味つけをした生味噌を用いたインスタント味噌汁が市販され、好評を博しています(写真3)。

図1 日本における味噌の分布
表1普通味噌の種類
種類 甘・辛味 色調 麹歩合
{(米/大豆)}×10
食塩含量
(%)
主な銘柄・産地
米味噌 甘味噌 白色 20-25 5-7 西京白味噌(京都)
赤色 13 6 江戸赤味噌(東京)
甘口味噌 淡色 8-10 10 相白味噌(静岡)
赤色 10-20 11-13 中味噌(広島)
辛口味噌 淡色 8-10 12-13 信州味噌(長野)
赤色 8-10 12-14 仙台味噌(宮城)・佐渡味噌(新潟)
麦味噌 甘口味噌 淡色 20 9-11 九州
赤色 15-25 9-11 九州・四国・中国
辛口味噌 赤色 10 11-13 埼玉・栃木
豆味噌 辛口味噌 赤色 0 10-12 愛知・三重・岐阜
図2-1 米(麦)味噌の製造法
図2-2 豆味噌の製造法
写真1 味噌
A:西京味噌(米味噌・甘・白色)
B:仙台味噌(米味噌・赤色・辛口)
C:赤だし味噌
写真2 味噌漬け
A:キュウリ
B:ショウガ
C:ウリ
D:ダイコン
写真3 インスタント味噌汁の例
A:インスタント味噌汁の袋
B:個装(左:合わせ味噌、右:具と調味料)
C:個装から出した合わせ味噌(左)と具と調味料(右)

納豆
暮らしの中の納豆

納豆は中国の雲南省が発祥の地とされますが、我が国には11世紀に、たまたま東北地方で煮豆が腐っているのを食べたら旨かったのが糸引納豆(以後納豆と略する)の発見である、という言い伝えがあります。
納豆には糸引納豆の他に中国から奈良時代(710―794)に僧侶によって伝えられた塩辛納豆があります。寺納豆ともいい、京都の大徳寺納豆、浜松の浜納豆があります。麹菌で豆麹を作って塩を加えて半年ぐらい発酵させて作りますので、色は黒褐色を呈し、独特の旨味を有しています。
納豆は蒸煮大豆に納豆菌をかけて温度を40°C前後に16時間保ち、その後24時間低温熟成させるだけでできます(図3)。
納豆の特徴は、におい・旨味・粘質物です。納豆菌はアミラーゼやプロテアーゼを生産し、大豆を柔らかくかつ旨味を醸成します。納豆菌は大豆表面にのみ生育し、粘質物を生産します。納豆はそのにおいと粘りが特徴となっています(写真4)。
30年ぐらい前までは、関東以北で主に生産利用されていましたが、納豆を自家醸造する農家も多く、また、市販品の業者も小規模でありました。納豆売りが毎朝町に納豆を売りに来ることも多かったのです。
1980年代に入って関西地方でも納豆が売られるようになり、そしてその頃からスーパーマーケットが発展して、安価な納豆もその全国的な販売網に乗って急速に消費を拡大しました。今では賞味期限が1週間であるにもかかわらず、2、3日で売り切られるようになっています。
納豆の容器は、小規模生産の頃は杉板を薄く削った経木(きょうぎ)や経木で作った箱や藁(わら)ツトが用いられていましたが、現在はポリスチレンペーパートレイ(PSP)容器や紙カップ容器が多用されています(写真5)。
納豆は食器の中で薬味・卵・だし(醤油を直接用いることも多い)を混ぜてかき回し、温かいご飯にかけて食するのが大部分です。その他に納豆の調理法としては納豆汁などがあります。納豆汁は納豆をたたいて粗く刻み、賽の目に切った豆腐を味噌汁に加えて作ります。塩辛納豆(大徳寺納豆)はそのまま食されることが多く、その調理法としては次のようなものがあります。
タイを薄く平作りにして細かく刻んだ大徳寺納豆をまぶしたりするタイのきんかん巻き。大徳寺納豆の天ぷら。大徳寺納豆を昆布のだし汁に漬けておいてすり鉢で摺り、八丁味噌と混ぜて味噌汁とする料理などです。

図3 納豆の製造法
写真4 納豆。かき回して糸を引いたところ。
写真5 納豆の各種容器
A:藁ツト
B:藁ツトを開けたところ
C:経木
D:経木を開けたところ
E:舟形容器
F:舟形容器を開けたところ
G:PSP容器
H:紙カップ容器
参考文献
  1. 1Ebine, H., Ishima, N., Kiuchi, K., Ohta, T., Takabayashi, T. (1977) “Miso Lipids and Relations Between Free Fatty Acids andQuality of Miso.” Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi 24 (1977): 295-299.
  2. 2Kanai, Y., Kimura, M., Kiuchi, K., Miura, N., Muramatsu, K., and Yoshida, K. “Production of Natto with High ElastaseActivity.” Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi 42 (1995): 575-582.
  3. 3Kanai, Y., H-R, Kim, Kiuchi, K., Muramatsu,K., Takeyasu, M., and Tanaka, T. “Manufacture of Chungkuk-jang with ElastaseActivity.” Food Science and Technology, International 3 (1997): 251-256.
  4. 4Kanai,Y., Kimura, M., Kiuchi, K., Muramatsu, K., Yamawake, N. and Yoshimi, T. “Purification and Crystallization of a NewBacillus Subtilis Elastase.” Home Economics of Japan 51 (2000): 1127-1135
  5. 5Katsumata, R., Kiuchi, K., Muramatsu, K., Tanaka, T., and Watanabe, S. “Natto Manufacturing Methods Employing NattoBacilli with High Elastase Activity and Its Mutants.” Proceeding of The Third International Soybean Processing andUtilization Conference, Tsukuba, Japan, October 15-20, 2000. Ed. K. Saio 333-334.
  6. 6Katsumata, R., Kiuchi, K., Muramatsu, K., Tanaka, T., and Watanabe, S. “Improvement of the Itohiki-Natto ManufacturingProcess of EmployingCommercial Natto Starters.” Proceeding of The Third International Soybean Processing andUtilization Conference, Tsukuba, Japan, October 15-20, 2000. Ed. K. Saio 335-336.

木内 幹(Kan Kiuchi)
1940年東京都生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。東京大学農学系大学院農芸化学専攻博士課程修了。農林水産省食糧研究所(現食品総合研究所)入所後、応用微生物部主任研究官、微生物利用第三研究室長を経て、現在共立女子大学家政学部教授。農学博士。