「食」を育む

(各種データは講演当時のものです)
展示期間
2006年10月~2007年6月

2005年(平成17年)7月に「食育基本法」が施行され、「食育」に対する関心が高まり、各方面で「食」に対する取り組みがすすめられています。食育基本法の前文には、『「食育」とは、生きるうえでの基本であり、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること』とあります。食生活の現状の課題をテーマごとにレポートし、「食」について考え、そして理解を深める糸口として、『「食」を育む』をまとめました。

人はなぜ食べるのでしょうか。食べると、食べ物からエネルギーが得られます。そのエネルギーをさまざまな活動に生かして、自分のため、家族のため、人のため、社会のため、民族のために有効に使います。それが「食べる」ことの意味です。
そして「食べる」こと、「食」は文化です。文化とは、ある民族が共有し継承するもの。その代表は「言語」と「食」です。日本には、日本にしかない「食文化」があります。その「食文化」を、大切にしなければなりません。
そのために、子どもたちに「食」を教えていくことは重要なことですが、まず大人が自らの「食」を考えることが必要です。特に団塊の世代以降は、社会環境の激変の中で育ってきました。受験戦争による塾通いのため「孤食」が始まり、「核家族化」し、欧米の食の嵐を受けてきました。いま一度、自分の「食」を振り返り、そして子どもと向き合い、「食」を育みましょう。

PFCバランス表
注:適正比率、P(たんぱく質)13%、F(脂質)27%、C(炭水化物)60%
食料・農業・農村基本計画における平成22年度の目標値

資料:農林水産省「食料需給表」(関東農政局「地産地消読本」より)

日本人のからだとこころ

私たち日本人は長い間、野菜・魚介類中心の食生活を営んできました。675年(天武天皇4年)に天武天皇による「殺生・肉食の禁断」の令がだされ、約1200年後の1872年(明治5年)に明治天皇が牛肉を食するまで、一部「薬を食う」と称し食べていたのを除けば、肉食は一般的ではありませんでした。しかしながら、この戦後60年、とくに昭和30年代以降で、肉の消費量は約5倍になり、あまりにも早いペースで日本の「食」の状況は激変してきたのです。
遺伝子には、大きく分けて家族の遺伝子と民族の遺伝子があります。日本人の民族の遺伝子は、蒙古斑・腸の長さ・食べ物の嗜好性などです。そして、その土地の気候や風土・食べ物などに大きく影響を受け、おだやかな感情と情緒豊かな心を長い時間をかけてかたち作ってきました。日本人には日本人に合った、カロリーが低く、栄養のバランスが良く、山海の豊富な食材をとりいれた食事、和食があります。
1713年(正徳3年)に貝原益軒(かいばらえきけん)が著した『養生訓(ようじょうくん)』に、「飲む水や食べ物はよく選べ。それによっては人の天性(親から受け継いだ性質)まで変わるのだから」とあります。食べ物が崩れると、こころも崩れてきます。

肉類の消費量(国民一人・1年当たり)
資料:農林水産省「食料需給表」(平成15年度)
油脂類の消費量(国民一人・1年当たり)
資料:農林水産省「食料需給表」(平成15年度)

日本の食文化-「和」食

日本の食文化の基本は「米」です。1960年(昭和35年)には114.9kg(1人/年)消費していましたが、2004年(平成16年)は61.5kgまで減少しています。
そして、しょうゆ、みそ、納豆といった発酵食品、自然環境に恵まれた野菜、魚介類の摂取が特徴でしたが、この40年の間に肉類・油脂類でつくる料理の占める割合が増加し、栄養のバランスが崩れてきました。
子どもたちの好みの洋食のメニューは、「オ・カ・ア・サン・ヤ・ス・メ・ハ・ハ・キ・ト・ク」というカタカナの言葉でまとめられます。それに対して伝統的な和食の献立は、「お・か・あ・さん・だ・い・す・き・ま・ま・す・て・き」というひらがなの言葉でまとめられます。
子どもたちの好みの料理のベストテンは、ヤキ肉、ハンバーグ、ピザ、カラアゲ、ギョウザ、スパゲティ・・・であり、和食はすし(回転すし)がやっと、10位以内に入ります。
「和」食を主体とした、調「和」のとれた食生活によって、こころも「和(やわ)」らぎ、「和(なご)」やかに、「和(のどか)」になります。「和」を大切にしようではありませんか。

洋食のメニュー
和食の献立

食料自給率 - もっとお米を食べよう

日本の食料の供給は、海外からの輸入に依存し、食料自給率(カロリーベース)は40%しかありません。1965年(昭和40年)には73%だった食料自給率が、減反政策、市街化区域内農地の宅地並み課税強化、食の洋風化、農産物の自由化などにより減少したのです。農業を育てる視点に欠けていたようです。
現在の日本をめぐる国際情勢は平和な状態が続いていますが、将来のことはわかりません。また、ブラジル、ロシア、インド、中国という国々の経済の発展とともにその国民の生活水準が向上し、消費が増加しています。それにより日本が影響を受けることは間違いありません。そして、すでに世界規模で発生している異常気象も農作物に影響を与えています。
食料自給率の高い米の消費が減少し、食料自給率の低い畜産物や油脂の消費が増加している現状を考えると、食料自給率を向上させることは容易ではありません。やはり、お米を中心とした和食を見直さなければなりません。次のテーマの「地産地消」が食料自給率向上の1つの施策となります。

主要先進国の食料自給率(カロリーベース)
米(国民1人・1年当たり)の消費量

地産地消-国産食材の消費を

「食べ物の新鮮さ、おいしさ、そして安全などを考え、その土地でできたものは、その土地で消費する」という、「地産地消」が注目されています。別の言葉で言えば、郷土料理の復活であり、日本本来の食のあり方にもつながります。千葉県では「地」を千葉県の「千」に置きかえて「千産千消」と表しています。
その具体策として、学校給食における地場産物の使用があげられます。地元の食材を通して、地域の自然や文化に関する理解を深めるとともに、それらの生産に携わる人々の努力を知ることは、食への感謝の念を育むうえで大切なことです。また、地元産直売のシステムを導入・拡充することも重要です。
「地産地消」の「地」は、「市町村」の「地」であり、「都道府県」の「地」であり、「日本」の「地」です。郷土、そして日本を大切にしようではありませんか。そうすれば、国産食材の消費につながり、食料自給率の改善にもなります。

都道府県別食料自給率(平成16年概算値)
資料:農林水産省 食料自給率レポート

環境にやさしく-廃棄を少なく

国民1人当たりの1日に供給されている熱量は約2,600kcal、そして摂取している熱量は約1,900kcalです。この差、約700kcalが食品ロスとなっています。
私たちが年間に廃棄する食品の量は約2,154万トン(環境省・平成14年度)、1人当たり150kgを超えます。その内の約55%は一般家庭から、約24%は外食産業やスーパーマーケットから、約21%は食品メーカーからです。2001年(平成13年)に施行された「食品リサイクル法」により、年間100トン以上の食品廃棄物を出す事業者は、2006年(平成18年)度までにリサイクル率を20%引き上げることが目標とされ、それぞれ再資源化に取り組んでいます。
また、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの小売店から出る賞味期限切れの食品廃棄量は約60万トン(農林水産省・平成15年度)。これを1日に必要な食物摂取量から単純計算すると、毎日300万人分以上の食料を廃棄していることになります。その食料廃棄物を利用し、環境・農業の振興のために堆肥(たいひ)化するプログラムに取り組んでいる自治体や団体もあります。
私たちも、買い過ぎ・作り過ぎに注意し、冷蔵庫を上手に使い、家庭からの食品の廃棄を少なくするよう努力をしましょう。

資料:(財)食生活情報サービスセンター『「食」から始まる健やかな生活。』
資料:農林水産省「食品ロス統計調査」(平成12年)

適正体重と内臓脂肪症候群

肥満は、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病と深く関係があります。肥満の多くは、食べ過ぎや運動不足によるものです。適正体重を調べる体格指数に、BMI(Body Mass Index)があります。BMI指数が22前後だと、病気にかかりにくいとされ、18.5~25までを正常範囲としています。
また、心筋梗塞や脳梗塞などの危険性が高い状態として注目されている「内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)」は、腹囲(ウエスト回り)が男性85cm以上、女性90cm以上で、高脂血症・高血圧・高血糖の3つのリスクの内、2つ以上該当すると有病者、1つ該当で予備軍としています。
肥満の予防には、魚や野菜を合わせやすく、脂質が少なく、植物性たんぱく質の確保ができる「ごはん食」が適しています。また、満腹感、満足感も得やすいのも、「ごはん食」の特徴といえます。

BMI(肥満度)とは
メタボリックシンドロームの診断基準
資料:農林水産省「食品ロス統計調査」(平成12年)

いただきます-朝食で1日のスタート

「いただきます」は、感謝・畏敬の表現です。では、誰・何に対して表現をしているのでしょうか。

  1. 1今日も元気に食べられる、自分に。
  2. 2料理を作ってくれた人。その食材を買うために働いている人。つまり、家族に。
  3. 3その食材を、お店で売っている人、そこまで運んでくれた人。その食材を作ってくれた人、手に入れてくれた人、また食べやすく加工をしてくれた人。つまり、社会の人たちに。
  4. 4そして、食材に。世界の多くの国で、食事の前の挨拶がありますが、それは「ありがとう」という感謝の言葉です。「いただきます」は、命をいただくことへの畏敬を示しています。

宮崎県では、2005年(平成17年)11月から、食を見直す問題提起として、~「いただきます」からはじめよう宣言~を展開しています。また、1日のスタートの朝食を欠食すると、落ち着きがなく集中力が低下します。朝食をきちんととっていると、食生活が規則正しくなり、食事のバランスもよくなります。

資料:厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成15年度)

5つの食材-ここ、カギだ

私たちの食生活でとくに摂取したい5つの食材を、「ここ、カギだ」と表現しました。米を主食に、根菜・海藻・魚介類・大豆を豊富に取り合わせた食事は、健康維持に大きな効果をもたらします。

1.こ-米

米は炭水化物を約75%含み、たんぱく質・脂質・食物繊維をも含む優れた食品です。ゆっくり消化され、食後の血糖値上昇もゆるやかです。

2.こ-根菜

ゴボウ、レンコン、ダイコン、ニンジン、サトイモなどの根菜類は、食物繊維を多く含み腸内を掃除し、また有益な腸内細菌を育てる働きもします。

3.カ-海藻

現在の日本人のミネラル摂取量は、1955年(昭和30年)当時の約1/7です。感情の抑制ができなくなる原因のひとつと考えられています。海藻類は、ビタミン、ミネラル(カルシウム・カリウム・鉄分など)、食物繊維を豊富に含みます。

4.ギ-魚介類

コレステロールを減らす成分やカルシウムが豊富に含まれ、また背の青い魚には、DHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれており、脳や目の細胞の成長を活発にする働きがあります。

5.だ-大豆

大豆は、肉と同じくらいのたんぱく質と脂肪を含み、「畑の肉」といわれています。また納豆に含まれるレシチンは脳の働きを高め、ナットウキナーゼは血栓を溶かす効果があります。

まとめ-5つの行動

「食育」とは、大人を教育することです。今のような食をめぐる状況をつくったのは大人なのだから。大人が認識を改めない限り、子どもに何を教えても生きた教育になりません。私たちは親から『親や食料生産者への感謝がなければ食事をしてはならない、一滴一粒たりとも残すなら最初から食べてはならない、他人の食べ物をうらやましがってはならない・・・・・』と教えられてきました。こうした教えに立ち戻らなければなりません。

教師、親、あらゆる大人が子どもと向き合い、5つの行動を通して「食」を育みましょう。

  1. 1「味覚」を育てること
  2. 2「素材」の背景を伝えること
  3. 3「火」や「道具」の使い方を教えること
  4. 4「親」と「子」が一緒に考えること
  5. 5「場」をつくり、楽しむこと
文責 キッコーマン国際食文化研究センター
監修 小泉 武夫

監修者紹介:小泉武夫(こいずみ たけお)
農学博士
専攻は醸造学・発酵学・食文化論
1943年(昭和18年)福島県の酒造家に生まれる
1966年(昭和41年)東京農業大学農学部醸造科学科卒業

<現在>
東京農業大学応用生物科学部教授
鹿児島大学客員教授
別府大学客員教授
広島大学医学部大学院非常勤講師
全国地産地消推進実行協議会会長(農林水産省)
NHK国際放送番組審議会委員などを務める

<主な著書>
『食の堕落と日本人』(東洋経済新報社)
『食の堕落を救え』(廣済堂出版)
『平成養生訓』(講談社)
など単著で91冊を数える

また、
『食あれば楽あり』(日本経済新聞)
『美味巡礼の旅』(毎日新聞)
『地球を肴に飲む男』(月刊『PLAY BOY』集英社)
『小泉武夫の食味学』(月刊『旅行読売』旅行読売出版社)
を現在執筆中

2006年9月現在