• 海外事業部 企画第1グループ
    下田 聖一郎
    1997年入社

  • Kikkoman Do Brasil
    秋元 壮介
    2001年入社
  • 海外事業部 企画第1グループ
    五十嵐 欽哉
    2006年入社

プロジェクト概要

2018年に発表された、キッコーマングループ長期ビジョン『グローバルビジョン2030』。そこには、しょうゆグローバル戦略として、「2020年代に南米を成長ステージへ」との目標が掲げられている。求められていたのは、南米における製造販売体制の確立。そのためのプロジェクトは2016年からはじまっていた。南米への足掛かりとなる最初の地にブラジルを選び、2018年にはキッコーマンブランドの液体調味料の発売、そして2021年には、満を持してブラジル産キッコーマン本醸造しょうゆの製造、出荷を開始するにいたった。南米の人びとに「はじめてのおいしさを届ける」というキッコーマンの壮大な挑戦、そのスタートに携わった三人が当時を語る。

秋元
2016年にこの南米プロジェクトがスタートした時には、いよいよ会社としても本気で動き出すんだという実感を得て、とても興奮したのを覚えています。私はその時点ですでにブラジル入りしており、本格的な現地生産・販売に向けた準備を行っていましたが、これからは本社と一体になって新プロジェクトを推進していけると心強く感じました。
下田
私はプロジェクトリーダーとして、日本側から南米全体の戦略立案、生産体制の構築、販売戦略の検討など、企画から実行まですべての工程を管理しました。もちろんこれは、多岐にわたる関係者と協業しながらの活動です。
秋元
プロジェクトのスタート以前から、私の前任者である森さんがブラジルに駐在してマーケティング活動を行い、新たなブラジル事業の基盤づくりを進めていました。本プロジェクトで実現してきたさまざまな挑戦の背景には、このような歴代の諸先輩方の経験や思いが息づいています。
下田
南米事業を担当することになり、全体の戦略を立案するにあたり、ブラジルから帰任してきたばかりの森さんと二人で、南米各国へ市場調査に行きました。この時の出張で得た発見や気付きが、その後の南米戦略の原型となり、現在、秋元さんが現地で進めている取り組みにもつながっていきました。
秋元
そうですね。当時みんなで、これまでの点から点へ細々と続けてきた当社の南米ビジネスを、これからは線でつなげていけるようにしたいね、そんな話をしたのをよく覚えています。
五十嵐
私はお二人から少し遅れて、2017年からのプロジェクト参加でしたが、前任者だったのが今もお話に出てきた森さんでした。当時、私にとって南米は未知の土地でしたが、ブラジル事業に長く携わってきた森さんの熱意に触れ、ブラジルの存在が近くなったと同時に、このプロジェクトに携われることにワクワクしたのを覚えています。

社内外の力を借りて乗り越えた
いくつもの壁

下田
我々のミッションは、地域特有の環境に適応した新しいビジネスモデルをつくっていくことなので、それ自体が大きなチャレンジです。
その達成に向けて、日本側では、南米事業に対する社内の理解や協力を得ながら、現地が必要とするリソースを確保し、支援することに奔走しました。
秋元
日本側と協業を進めていく中、私が何か間違った解釈や情報を伝えてしまうと、プロジェクト自体をミスリードしてしまう。そんな可能性と背中合わせでしたから、責任の重さを感じていました。
五十嵐
私は日本で、調査支援や商品開発支援などのサポートを行っていましたが、そのために社内ルールの改正を行ったり、新たなガイドラインを作成したりしていました。既存のビジネスモデルにとらわれず、新たな考え方で市場開拓につなげていくことはまさに挑戦でした。
秋元
現地にはすでに日本とは異なる風味のしょうゆ(甘くて暗い色調)が一般的なものとして浸透していて、しょうゆというもの自体の認知度も高い。多くの競合がいる中、果たして日本の本醸造しょうゆだけにこだわって、この壁を乗り越えられるのか、その点についてはすごく議論しましたね。ブラジルのしょうゆ市場ではキッコーマンは後発になるので、いきなり現地の認識と異なるスタイルのしょうゆで勝負したのでは難しいです。それであれば、最初に現地のしょうゆ文化に合わせたしょうゆベースの液体調味料に挑戦しながら、顧客層に合わせて、ブラジルにとっては新しい価値である本醸造しょうゆも両輪で提案していこうと考えました。我々にとっては大きなチャレンジです。
下田
そしてその際には、社内において、ブラジルの消費者嗜好や現地の製造環境、ブラジル特有のしょうゆ文化に合わせた液体調味料を開発していくことへの理解を深めていくことが必要不可欠でした。また、プロジェクトでは、原料調達の壁、コストの壁、協業先や社内での意見の相違などさまざまな壁にぶつかりました。一つひとつの壁を突破していくにあたり、過去にブラジル事業に携わったことのある社内外の方々にもアドバイスを求めました。そこにわずかでも可能性を見出せばすぐに試してみるなど、スピード感を持ってトライアルを重ね、粘り強く突破していったというのが実感です。

ブレイクスルーの先にあった
本醸造しょうゆの出荷

秋元
最初は数種の液体調味料でスーパーに参入しましたが、それだと商品棚に並べてもらえず、現地の方にもキッコーマンを認識してもらえません。そこで商品のシリーズ化を考え、種類を増やしていくうちに、ようやく商品を並べてもらえるようになりました。そのことが、ブラジルでの商品販売に拍車が掛かった大きなきっかけだと思います。
五十嵐
そのためには、現地で商品を製造するにあたり不可欠だった、ブラジルのパートナー企業選定もポイントだったのではないでしょうか。キッコーマンのものづくりに対する考え方を理解し寄り添ってくれるパートナー企業を見つけ出し、彼らとともに商品化を進めていけたことも、ある種の突破口になったと思います。
下田
そうですね。我々の求める厳しい品質基準を理解し、ともに歩んでくれる相手でないと、商品化まではたどり着かなかったと思います。あとは、このプロジェクトを通じて協業パートナーとなってくださった方たちと、密なコミュニケーションを取りながら、臨んだのも大きかったといえそうです。
秋元
2020年には、現地でしょうゆや酒類や調味料を製造していたAzuma Kirin社の株式譲渡を受け、Kikkoman do Brasil社として再スタートし、ここを拠点に2021年、ついにブラジル産本醸造しょうゆの出荷・販売が開始されました。ローンチ時には感慨深いものがありました。キッコーマンという会社として、南米の自社工場で、フラッグシップである本醸造しょうゆをつくったのは初めてのことです。非常に大きなターニングポイントになったと思います。

キッコーマンの大きな試みを
南米全土へと水平展開

下田
南米での現地産しょうゆ出荷後には、これまでプロジェクトに関わってくださった方々から多くの反応がありました。よろこびのメッセージをいただく一方、「いよいよこれからがスタートだね」といった、今後に期待する声も多かったです。
秋元
現地でもキッコーマンの本醸造しょうゆは品質が良いとの評価をいただきました。鮮やかな色調で非常にフレッシュ感があり、おいしいしょうゆだとの声を聞きます。
下田
うれしいことですね。ブラジル産しょうゆの出荷により、『グローバルビジョン2030』の実現に向けて大きな一歩を踏み出せたと思いますし、社内的にも南米でこんな挑戦を行っているんだと認識してもらえる機会になりました。
五十嵐
確かに、南米に対する社内の注目度は格段に上がったと思います。手を挙げて、自ら活動に参加してくれる方も今後増えていくのではと感じています。
秋元
とはいえ、先ほどあったように今回の本醸造しょうゆ発売はあくまでスタートライン。これからさらに南米での可能性を広げていくため、さらなる挑戦を続けていかなければなりません。
下田
現在はブラジルのみでの販売となっていますが、最終的には南米全域へ商品を供給できるようにしていきたいですね。
五十嵐
そのような活動には、ぜひ私も関わっていきたいと思います。
下田
素材を選ばず、さまざまな料理になじむしょうゆの特徴を生かして、現地の食文化との融合を図ることがしょうゆを普及させるために大切だと考えています。日本食や日本文化とは少し違ったところで、現地の家庭で日常的に使われる調味料になり、その土地に根づく。その時に初めて、このプロジェクトが完遂したということになるのだと思います。

挑戦ストーリー Reccomend