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左キッコーマンソイフーズ(株)
企画開発部出向仲原 丈晴2001年入社
(当時:研究開発本部所属) -
中
央KIKKOMAN(S)PTE LTD
(シンガポール)山崎 達也2009年入社
(当時:しょうゆ開発部醸造チーム所属) -
右商品開発本部 調味料開発部梅澤 洋貴2012年入社
(当時:しょうゆ開発部醸造チーム所属)

プロジェクト概要
2011年頃から検討されていた新しい発酵調味料の開発。その調査上で浮き上がってきたのは、食物アレルギーのため、通常のしょうゆを使用できないお客さまの姿でした。そこで「世の中のすべての人のおいしい記憶づくりに貢献したい」との思いから、新しいしょうゆ開発に着手。さまざまな原料を試したところ、アレルゲンとなる大豆と小麦の代わりに使うのはえんどうまめが最適であるとの結果が出ます。それを受けて、2012年本格的にプロジェクトがスタート。関係各部署の協力を仰ぎながら開発を進めていき、2016年に初めての「えんどうまめしょうゆ」が完成します。当初は通信販売限定でしたが、2019年には全国での店頭販売が始まりました。食物アレルギーのある方にもキッコーマンのおいしさを届けたい、その思いを胸に奔走した三名が当時を振り返ります。

- 山崎
- このプロジェクトの前から開発に関わっていたのが、研究開発本部に所属していた仲原さんでした。私と梅澤さんは遅れてプロジェクトに参加しましたが、すでにえんどうまめを原料とすることが確定しており、仲原さんが知見を持っていたので、私たちはそれを製造現場に当てはめていくという感じで開発に携わりました。
- 梅澤
- そうですね。この試みには意義を感じましたし、個人的に共感もしていました。2015年に初回製造に向けた工場への落とし込みが始まり、その時から私は参加しました。上司から声が掛かった時には心の中で「よしっ!」と、すごくうれしかったのを覚えています。
- 山崎
- 新しい原料を使い、今までとは異なる商品をつくる。とても挑戦しがいのある仕事です。同時に、社会貢献にもつながる開発に携われることをとても光栄に思ったものです。
- 仲原
- 大豆・小麦不使用のしょうゆは、それまでのキッコーマンには存在しませんでした。けれど、少数かもしれませんが確かに潜在ニーズはあります。完成させればきっと世の中の役に立つという思いは、私も抱いていました。アレルギーを持つ方でもおいしいしょうゆを味わえ、よろこべる、そんな商品をつくりたいと思っていました。
日本農林規格により大豆を使用していない発酵調味料は「しょうゆ」の定義に当てはまらず「しょうゆ風調味料」となりますが、商品名には「えんどうまめしょうゆ」を用いることができます。

数字という確かなものと、
商品への思いを持ってプロジェクト発進

- 仲原
- プロジェクト発足以前、さまざまな形で基礎研究を続けていましたが、それを商品化へとつなげていくのはとても難しいです。ですから今回の最初のチャレンジは、商品開発本部やプロダクト・マネジャー室の方たちにこの研究の意義を理解・納得してもらい、GOサインを出してもらうことにありました。
- 山崎
- 会社としてはやはり利益を出さないといけないし、同時にキッコーマンから発売する意味のある商品でなければならない。
- 仲原
- そうです。今回は新機軸の商品なので前例に当てはめた売上予測が難しく、賛同を得るまでに時間がかかりました。消費者調査を行い、現在のアレルギー人口を調べ、それが増加傾向にあることも数字で示しました。加えて、「おいしい記憶をつくりたい。」というコーポレートスローガンにのっとり、食物アレルギーを持つ人にもしょうゆのおいしさを届けることに意味があると、キッコーマンの一員として抱く思いの部分にも訴えていきました。

開発側の熱意が浸透、
現場でも確かな手応えが

- 山崎
- そんな努力が実ってプロジェクトがスタートしましたが、商品化に向けて私が特に気を遣ったのはアレルゲン混入回避の問題です。大豆や小麦を日常的に使っている工場で、どうやったらそれらを混入させず、「えんどうまめしょうゆ」の製造ができるのか。結局は設備を洗うしかないのですが、どこを、どのくらい洗えば良いのか判断し、現場のスタッフにも納得してもらうのが苦労した点でした。そのために今回のプロジェクトの意義などについて理論的に話すだけではなく、「これはキッコーマンが提供すべき商品なんだ」と情熱や熱意を持って訴え続けました。この点は、仲原さんの最初の説得と共通していますね。結果、そこで共感を得られたことがブレイクスルーになりました。
- 梅澤
- そうですね。アレルゲン混入回避、これを現場の方たちと一緒にしっかりやれたからこそ、自信を持って提供できる商品が生まれたと感じています。今でも覚えているのは、一枚の紙に製造工程を書き出し、そのすべてのポイントにおいてアレルゲンを除去できていると確認していったことです。安全性において、決して妥協はしませんでした。
- 山崎
- そういえば、最初にしょうゆのもろみをポンプで移送する際、大豆・小麦を使った時より汲み出しのスピードが遅く、非常に困ったこともありましたね。
- 梅澤
- その前段階、麹の育成にも苦労しました。麹は生育すると温度が高くなりますが、それを下げるといった温度管理が大変でした。現場スタッフと意見を出し合い、試行錯誤して作業にあたったのは、今になってみると良い思い出です。
(参考:キッコーマンしょうゆのできるまで)
- 山崎
- 我々がいつも工場にいる訳にはいきませんが、現場のスタッフは毎日醸造の様子を見て情報を伝えてくれたり、意見を出したりしてくれていました。とても注意して製造にあたっていることが感じ取れ、印象に残っています。これは開発者が最初に抱いた熱意が、現場まで浸透していたということです。製造に関わるあらゆる人が同じ思いを持ってつくり上げたという点が、私がこの商品を好きな理由の一つです。

お客さまからの感謝の声と業界の注目を
バネに次のステップへ

- 仲原
- そうして出来上がった「えんどうまめしょうゆ」ですが、発売を迎えた時はやはりうれしかったですね。
- 山崎
- 同感です。最初は通信販売限定で、この商品を求めている方に確実にお届けするという形でしたが、徐々にルートを広げていって、2019年には無事店頭販売を行えるようになりました。プロジェクトとしては最初の発売、2016年で完遂したことになると思いますが、商品としてはそこからがスタートだったといえます。
- 梅澤
- 私も同じく、商品は発売して終わりではなく、そこから成長していくものだと思っています。お客さまの目には触れませんが、現在でも製造工程の改善を行うなど、さらに商品を良いものとするための努力は続いています。
- 仲原
- 大豆アレルギーを持つお客さまから当社のお客様相談センターに「ちゃんとしたおいしいしょうゆを食べることができて、とてもうれしかった」というお声をいただいたのもうれしかったし、印象的です。食物アレルギー患者向けの講演会で講演した際にも、「いつも使っている」「おいしい」などのお声を直接聞くことができました。社会貢献的な意味合いを含め、「実現できて良かった」開発だと思っています。
- 梅澤
- 私は一時期、営業職の方と仕事をする機会の多い部署にいましたが、他の食品メーカーの方からも興味を持ってくださっていると聞きました。
- 山崎
- 欧米を中心としてグルテンフリーへの関心が高まっています。この商品は小麦も使っていませんから、その意味でも選ばれる商品になり得ると思います。
- 梅澤
- もしかしたら、この商品はこれからさらに求められていくものなのかもしれませんね。