キッコーマン食文化セミナー

火の料理・水の料理 ~食に見る日本と中国~

日程 2011年11月30日
場所 野田本社
講師 木村春子先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター

1.中国と日本の料理の主な特色

中国と日本の料理の違いについて、(1)油の多用/比較的少ない、(2)加熱調理が主体/生食が多い、(3)乾貨(乾燥食品)が発達・重視/新鮮素材・生の持ち味を好む、(4)複雑な調理工程/素材の味を生かした単一調理、(5)発酵調味料・あわせ調味料・複合調味料/比較的単純な調味・単一調味、と多くの日本人は同様な感覚を持っている。

中国料理は油で炒める(高温加熱)ことが多い。(3)の乾貨は、フカヒレ・ツバメの巣・干ナマコ・干アワビと高価な乾物があり、素材に合った戻し方がされる。日本にも高野豆腐などの乾物はあるが新鮮な素材が優先される。(4)は炒めてスープで煮る・揚げてくずびきで仕上げるなどいくつもの調理の工程を経るが、日本では生のままとか、茹でただけでおひたしにするなど単一の調理が多い。(5)中国では多種の調味料や香辛料を混ぜ合わせ多彩な色が交じり合うが、日本はつけだれ・つけ汁のように素材の中まで浸透させず表面につけただけで、素材の味がわかる食べ方がかなり多い。中国にもしょうゆはあるが、つけただけで食べることはほとんどない。

2.油と水の問題

中国では「油」はエネルギー源、「加油」は力を蓄え発揮することで、中国料理は油と巧みな火の使い方で大いに発達した。一方、島国の日本は良い水に恵まれ、生のまま・茹でるだけ・煮るだけで食べることが多い。生で食べるということは水で洗っただけで食べられることであり、茹でる・煮るは水が良くないとおいしくない。広大な中国の河川は流れが緩やかなため泥水や濁り水となり、水には恵まれない地域が多い。水の良くないところでは加熱調理することが多く、東アジアで古くから行われている「蒸す」は、泥水に浸さないでも加熱できる調理法である。

中国は、黄河と長江の流域に食文化が発達し四大料理に分けられる。北方系は北京を中心、東方系は中国人もあこがれる水の豊かな長江下流で季節も日本に似ている揚州・南京・杭州・上海、西方系は長江上流の四川省(昔は四川あたりまでが中国であった)、南方系は広東や福建省になる。

3.食材と調理

中国の市場には血の色が鮮やかな肉、生きたまま売られる鳩やウサギがあり、食べることには貪欲である。魚も多く使うが、日本に比べ淡水産のものが多い。肉は豚が中心だが、北方は羊、豚を食べない回教徒は牛を食べる。乾貨は海産のものが多く高級料理に多く使われる。世界中で、いつでもどこでも使える合理性と高度な調理技術で非常に発達している。

スープのとり方には大きな差がある。日本のだしはカツオ・昆布を用い、一番良い味のところをサッととるが、高級な中国のスープは、鶏・アヒル・豚・金華ハム・葱・生姜をじっくり煮込む。水が良くなく、グルメなところでは、水の弱点をカバーするために徹底的に味を出す。

4.自然と四季

何種類もの香りや辛味を複雑に重ねる中国料理に対し、日本料理は生鮮素材を好む傾向があり季節感を大切にし、香りや刺激がほのかに感じる程度にとどめる。中国は地域によっても違い、春の筍、夏のじゅんさい、秋の上海ガニと日本に近い東方系もあるが、季節の求め方は日本料理ほどではない。

5.五感すべての総合性

日本人は、見た目が美しく色の表現が豊かな盛り付けを好むが、中国人は口に入れてから評価する。つまり、見た目や色には比較的無関心で、舌触りや香りも含めた食感を大切にする。中国の料理書を翻訳した時、日本語で翻訳できない場面に遭遇した。柔らかいといっても、若い柔らかさ、崩れるような柔らかさ、クリームのような柔らかさにはそれぞれ漢字がある。中国人が好きな食感に軽くほぐれるようにもろい「脆(ツォエイ)」や舌ざわりがなめらかな「滑(ホワ)」がある。揚げた肉や魚にあんかけやくずびきしたものは、噛むとカリッとし舌ざわりはなめらかで中国人に人気が高い。

6.単純と複雑、純粋と調和、ソロの美とハーモニーの豊かさ

日本料理は、良水に恵まれ、手早くだしをとり、調理はむしろ単純にして素材の持ち味を生かし、手を加えすぎないシンプルな調味・調理で純粋さを見せるが、中国料理は、うまみを可能な限り抽出したスープを用い、熱した油で香りを出し、複雑な香りとだしで、豊かにまろやかに調和のとれた味わいを目指している。そういう目でこれからは中国料理を味わっていただきたい。