キッコーマン食文化講座

熟したトマトは美味しさ工場! ~トマトの美味しさと、トマトを使う世界の人たち~

日程 2012年5月24日
場所 野田本社
講師 高田式久先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター

トマトが熟成を開始するとき、エチレンという物質が合成され、さまざまな化学反応を開始させます。その代表的な反応は①代謝が活発になり、②軟らかくなり、③色が橙色から赤色へ変化します。その結果、トマトは i)美味しさが増し、ii)香りが出て、iii)栄養分が増し、iv)軟らかくなり、v)色が赤く(橙色系トマトの場合は橙色に)なります。全てこのエチレンの合成から開始されわずか7から10日間にこれら全ての反応が起きます。

熟度が進むと甘みと旨味が増すのは、糖分が増え、酸の成分が減り、そしてグルタミン酸が劇的に増加するためです。糖分は夜間に蓄えられますので、朝早く収穫したトマトは日中や夕方収穫したものより糖分は高いです。これは朝摘みが美味しい理由です。

熟成過程で一番注目すべきはトマトのグルタミン酸含量の増加です。グルタミン酸は熟成前後で約10倍にも増えます。品種や生産条件により違いはありますが、生食用トマトでは約40~300mg/100g、加工用トマトでは100~300mg/100gの範囲の濃度となります。

トマトにはグルタミン酸が多いため、他の食材と組み合わせると旨みが増します。核酸やアミノ酸を含む魚介類、核酸を含む肉類などと組み合わせると、トマトは味に癖がないので、煮込んでも(濃縮しても)、他の素材の味を壊さず、美味しさを引き立てます。酸味も程よく、味を引き締める効果もあります。

他の食材の遊離グルタミン酸(旨味として感じるグルタミン酸)はパルメザンチーズや魚醤には特に多いです。トマトでは少なく見えますが、トマトは日常の食事で摂取する量が多いので、食事単位で比べると、非常に多いグルタミン酸を提供している素材と考えるべきです。野菜の中では、トマトがもっともグルタミン酸が多い素材です。

一方、トマトのアミノ酸構成比率を見ると、醤油と非常に良く似ており、トマトが西洋の醤油的存在でいろいろな料理に使われている一つの理由がここにあると思われます。

トマトを食べたり、トマトジュースを飲むと、私たちの舌の味覚センサーとのどが同時に刺激され、甘み、酸味、旨み、のど越しという刺激を受けます。特に旨み成分は脳が食べた食物の消化準備をするシグナルを与える役目を持っており、食欲と消化器官を同時に刺激します。

小腸は食事をしたときに、消化吸収をするという大切な仕事をしています。その時に使うエネルギーの半分以上は食事から由来するグルタミン酸とアスパラギン酸なので、旨みとしての役割だけでなく、小腸にとって大切なグルタミン酸とアスパラギン酸が含まれていることが、トマトを特徴付けているのです。飲料として、料理素材として、調味料として使え、体にとっても貴重な野菜です。

加工用トマトは世界どこでも樹上完熟トマトのみ、すなわち畑で完熟したトマトのみを加工用として用います。日本ではほとんど手摘みで完熟したトマトを収穫・選別します。アメリカのような大営農法の場合、収穫機で全てのトマトを収穫し、カーラーソーターという色調判別する装置と人の目で未熟果を除き、完熟トマトのみを大型トラックに積み込み、加工工場に運びます。美味しいトマト製品の原点がここにあるのです。