江戸の台所、房総 ~その特産品と性学餅~
日程 | 2016年9月24日 |
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場所 | 野田本社 |
講師 | 龍崎英子先生 |
主催 | キッコーマン国際食文化研究センター |
千葉県は北部に利根川が流れ銚子に達し太平洋に注ぎ、東南に太平洋、西の県境は江戸川が流れ、まさに水に囲まれた地形のため水運による物流が発達した。また東南各地の漁港からは押し送り船や五大力船などにより江戸の各専門の河岸に物資が運ばれた。陸路は各種の街道により江戸川まで荷物が運ばれ渡し船により江戸入りが可能であった。街道では木下街道、成田街道、千葉街道などから多くの荷物が船橋に集まり、御成り街道を経て行徳から新川を通り中川の渡し船場を経て物資が運ばれた。(江戸の掘り割りが舟運のルートである)
さて千葉県(下総、上総、安房)の産物とは?
農産物は米や麦をはじめ大豆、小豆、粟、里芋と多くの野菜類や果実類(柚子、夏みかん、ビワ)があり、椎茸や筍は現在では特用農産物として県も奨励している。
海産物は近海物をはじめ、遠洋漁業によるマグロや鰹、沿岸や岩礁からはサザエ、アワビ、伊勢エビなどのほかにアサリ、蛤、赤貝、バカ貝などが海辺のおかずとして安易に採れたことも、同時に漁師たちが漁の帰りに採ってくる海草の存在も見逃せない。アオサやウゴを日常的に食べることにより便秘が解消されると言う。また外房はテングサの宝庫で夏になると家中総出で海に潜りテングサを採り乾燥させて出荷する。同時に煮溶かして「ところてん」を作り夏のおやつとして食べる。これらの海草の他、ツノマタ類も多く特にコトジツノマタは正月用のハバノリと共に千葉県人の好む正月用の雑煮の主役である。このように海岸線(500キロとも言われている)からの自然の恵みは計り知れない。これら数多くの海草類が多くの郷土料理を生み出してきたことは興味深い。
また林業も盛んで、里山を生かした山武杉の植林や槙の育成が多く行われているが、一昔前までは家庭用の薪炭を県内、県外に出荷していた。上総の炭焼きは小説にも書かれるほど有名な生業であった。(炭焼きの娘~長塚節著)
特筆すべきは、この県が酪農発祥の地で江戸時代にインドのヒマラヤの山麓から雌牛2頭、雄牛1頭を輸入し乳牛の飼育を始めたことである。現在は乳牛発祥の地として有名であるが、同時にこの嶺岡地域は初乳を酢で固めた初乳チーズの産地としても知られていた。また乳を搾るのは専門の搾乳夫が行い、飼い主は産後1週間の初乳のみ飲めるということなど、乳の取り扱い方が厳しく管理されて今日に及んだ。現在は各酪農家で自由に乳を搾りカテージチーズや他の加工乳製品を製造販売している。また後継者たちは専門技術を身に付けるための学習を怠らない。
当日は郷土料理の紹介のため、利根川沿岸から佐原、旭市にかけて作られる性学餅の試食を実施すると共に、太巻き祭りずし、銚子の濡れ煎餅、うお麺、鴨川市の鰹節製品と漁師のふりかけ、クジラのたれ、天門冬(てんもんどう)を展示した。