キッコーマン食文化講座

発酵のチカラ ~世界に誇る 日本の発酵食品~

日程 2023年8月19日
場所 キッコーマン株式会社東京本社 KCCホール
講師 東京農業大学名誉教授 舘 博氏
主催 キッコーマン国際食文化研究センター
全景

我々の先人達は、夏暑くてジメジメする梅雨がありカビが生える気候風土を逆手にとって、麹菌というカビで食品を造る技術を発展させた。「麹を使用して、我国の伝統的な発酵食品を製造すること」を醸造と言う。日本の醸造物には、清酒、焼酎、みりん、醤油、味噌、食酢などがある。麹には麹菌が生産するプロテアーゼやアミラーゼなどの各種酵素が含まれており、醸造における原料の分解を担っている。ところで麹菌は、我国において醸造のみならず酵素工業や医薬への利用など幅広く使われている。「日本からの麹菌の科学技術と文化の発信は、21 世紀の世界に大きなインパクトを与えるものと期待される。(一島英治)」として、20061012日、日本醸造学会は麹菌を国菌に認定した。
一方、201312月、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録された。平均寿命が世界一の日本の和食ということで和食が健康に良いとされ、世界で和食ブームが起こっている。

醤油、味噌のルーツは、食塩を混ぜた保存食である醤(ひしお)といわれている。仏教の伝来と共にその製造方法が中国から伝わり、醤から未醤(みしょう)が生まれ、さらに味噌ができたと考えられている。味噌の桶に溜まった溜りが、室町時代に独立した液体調味料である醤油(溜醤油)になったとされている。江戸時代に関東で濃口醤油が生まれ、その香りと味の良さから全国に広まった。その後、兵庫県の龍野で淡口醤油、山口県の柳井で再仕込み醤油、愛知県の碧南で白醤油が生まれてくる。
醸造物には多くの機能性成分が含まれている。醤油:坑腫瘍性、ACE阻害活性、抗酸化性、骨粗鬆症予防、抗アレルギー活性、鉄分吸収促進、中性脂肪低下作用。味噌:放射線防御効果、ACE阻害活性、坑腫瘍性、抗変異原生、抗酸化性。食酢:消化液分泌促進、疲労回復、肥満防止、カルシウム吸収促進、血圧上昇抑制、抗酸化性。

舘先生

みりんは多くの成分を含んでいることと、アルコールを含むお酒であることから、特有の調理効果が生まれてくる。みりんの調理効果としては、上品な甘味、テリ&ツヤ、煮崩れ防止、深いコク&旨み、味がしみこむ、消臭の6つが知られている。

清酒は三段仕込みによる並行複発酵と高濃度仕込みにより、醸造酒でありながらアルコール20%にもなる世界に誇る酒である。単式蒸留焼酎は、原料の風味を生かした蒸留酒である。

演者らは麹菌が新規アミノペプチダーゼであるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4)を生成していることを見出し、本酵素が醤油醸造におけるアミノ酸生成に極めて重要な働きをしていることを明らかにした。これまで、本酵素を用いたヒト2型糖尿病予防にかかわる食品中のDPP4阻害ペプチドの探索について研究を行ってきた。納豆が高いDPP4阻害活性を示し、50%阻害濃度(IC50)も6.357.1㎎/mℓと食品としては比較的高い値を示すことを見出し、納豆のDPP4阻害ペプチドは、Lys-LeuLeu-Argであることを明らかにした。

日本人にとって、日本の発酵食品を使う和食が健康に良いと考えている。