キッコーマン食文化講座

日本ワイン最前線~日本のワインぶどう品種、その魅力~

日程 2024年11月16日
場所 キッコーマン株式会社東京本社 KCCホール
講師 公益財団法人 日本醸造協会 常務理事 後藤 奈美氏
主催 キッコーマン国際食文化研究センター
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はじめに:日本のワイン生産・消費etc.

 国内のワインの消費量は、増減を繰り返しながら大きく増加してきました。また、ワインやシードル等の果実酒の製造免許場数は、2008年の238場から2022年の512場へ大きく増加しており、その大部分は小規模なワイナリーであると考えられます。日本で栽培されたぶどうから造られる「日本ワイン」の表示ルールが201810月からスタートし、日本ワインが注目されることが増えています。しかし、国内に流通するワインのうち、日本ワインの割合は45%と推定され、量的にはまだまだ、と言えます。

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日本ワインのぶどう品種

 日本のワイン用ぶどうとして最も多く使われている品種は、赤はマスカット・ベーリーA、白は甲州です。マスカット・ベーリーAは、日本のワインぶどうの父と呼ばれる川上善兵衛がアメリカ系のベーリーとヨーロッパ系のマスカット・ハンブルグを掛け合わせて育種した品種で、日本の気候に栽培適性があります。軽いタンニンが特徴ですが、最近では樽熟成したワインやロゼワインも造られています。マスカット・ベーリーAの甘い香りの主成分はHDMF(フラネオール®)であることが報告されています。この成分は醤油の特徴香成分、HEMFと構造が類似しており、醤油を使った料理とよく合う、と言われる理由の1つかもしれません。甲州は商業利用されている唯一の日本の在来品種です。その由来については諸説ありましたが、DNA解析の結果、ヴィニフェラのDNAに野生ぶどうのDNAが約1/4含まれること、および母方から遺伝する葉緑体のDNAが中国の野生ぶどう、ヴィティス・ダヴィディに一番近いことが示されました。これらの結果から、甲州はヴィニフェラの故郷とされるコーカサス地方からシルクロードを伝って日本に来るまでに、中国の野生ぶどうとも交雑をしていたことが推定されます。甲州のワインは、以前は香りの特徴に欠ける上に少し苦みがあり、酸化的なワインが多かったのですが、関係者の高い志と栽培や醸造の技術開発の成果で、樽発酵・樽熟成したワイン、柑橘系の香りや穏やかなフルーティさを特徴とするワイン、スパークリングやオレンジワイン、と高品質で多様なワインが造られるようになりました。また、魚介の生臭さを引き出さないことも甲州の特徴の一つです。

 

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世界の中の日本ワイン

 今、世界のワインには、国際品種への集中から在来品種、固有品種の見直しへ、より多様なワイン・軽快なワインへ、との流れがあります。甲州やマスカット・ベーリーAを含む日本ワインが国際的なワインコンクールで受賞することも増えてきました。日本ワインの強みは、和食にも合う繊細な味わいと、日本の夏に雨が多いなどの不利な環境も克服する高い技術力にあると言えるでしょう。