しょうゆのおいしさを科学する~色・味・香り~
日程 | 2025年1月18日 |
---|---|
場所 | キッコーマン株式会社東京本社 KCCホール |
講師 | 東京農業大学名誉教授 舘 博先生 |
主催 | キッコーマン国際食文化研究センター |

しょうゆは日本人にとって無くてはならない醸造調味料であるが、あって当たり前の空気のような存在で、原料が大豆のほかに小麦も使われていることや、その種類が5種類もあることや、製造方式に本醸造、混合醸造、混合の3種類があることなど、しょうゆのことはあまり知られていない。また、しょうゆの地域性については、「九州のしょうゆは甘い」ことは有名であるが、その他の地域についてはあまり知られていない。本講座では、改めて本醸造しょうゆの製造方法について解説すると共に、混合しょうゆとはどのようなしょうゆかと、しょうゆの地域性について解説する。
しょうゆのルーツは、食塩を混ぜた保存食である醤(ひしお)といわれている。仏教の伝来と共にその製造方法が中国から伝わり、醤から未醤(みしょう)が生まれ、さらに味噌ができたと考えられている。味噌の桶に溜まった溜りが、室町時代に独立した液体調味料であるしょうゆ(溜しょうゆ)になったとされている。江戸時代に関東で濃口しょうゆが生まれ、その香りと味の良さから全国に広まった。その後、兵庫県の龍野で淡口しょうゆ、山口県の柳井で再仕込みしょうゆ、愛知県の碧南で白しょうゆが生まれてくる。

2023年における本醸造しょうゆの生産量はしょうゆ全体の約90%であるが、混合しょうゆも10%を占めている。戦時中、しょうゆ原料がひっ迫する中で、副原料としてアミノ酸液を使用する混合しょうゆがつくられるようになる。混合しょうゆの製造は、本醸造しょうゆに比べて簡便であることから、全国で製造されるようになった。戦後、原料難が解消し、大手しょうゆメーカーは本醸造しょうゆの生産に戻したが、中小しょうゆメーカーでは混合しょうゆの生産が残った。
大友1)らの研究によると、日本各地で売れているしょうゆは、官能的特徴により8グループに分類され、それらの使い方により日本の10地域は3つに分けられることが明らかになった。九州のしょうゆが甘いのは、江戸時代に長崎から砂糖が輸入されたこと、サトウキビ栽培地域に近く砂糖が入手しやすかったこと、混合しょうゆの多い地域で混合しょうゆと砂糖の相性が良いことなどが原因と考えられた。漁師町のしょうゆが甘いことに関しては、戦後、生地(黒部市)で開発された甘いしょうゆが、北洋漁業の船に積込まれ、根室や岩手、宮城に運ばれたとの話がある。

しょうゆは、麹菌、乳酸菌および酵母などの微生物の発酵作用により醸造されることから、多くの物質を含む複雑な調味料である。しょうゆには多くの機能性成分も含有されているが、しょうゆは調味料であるのでそのおいしさを評価して欲しいと思う。このしょうゆのおいしさが、人の脳に対する刺激となり健康効果を生み出しているのではないかと考えている。日本人にとってしょうゆを使う和食が、健康に良いと考えている。
1)大友裕絵、今村美穂、佐々木努、木津邦知:FOOD CULTURE、26、3-8(2016)