みりんの起源を探る
日程 | 2025年2月15日 |
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場所 | キッコーマン株式会社東京本社 KCCホール |
講師 | 中国食文化研究家 大塚 秀明先生 |
主催 | キッコーマン国際食文化研究センター |

はじめに
みりんとはなにか、辞書には「焼酎と蒸した糯米(もちごめ)とをまぜ、麹を加えて醸造し、かすをしぼりとった酒」とある。醸造酒といわれる「酒」に比べれば、焼酎を使用するみりんは新しい酒である。新しい酒であれば起源も判明していそうであるが、国内起源説と舶来渡来説の両論併記がなされているのが現状である。そこで、中国の明清時代の文献に見られるさまざまな表記の「みりん」から、その起源を探っていく。
国内起源説
日本での「みりん」初出例といわれている記述は『駒井日記』(1593年)であり、秀吉の時代(1537~1598年)の記録である『太閤記』にもみりんが現れる。また、松永貞徳が書いた『貞徳文集』(1650年)には「葡萄酒、焼酎、みりん類は異国より来る候」とある。ぶとう酒、焼酎とともにみりんが舶来渡来説を主張する有力な資料となりそうに思うが、そうなっていない大きな理由は、海外文献として引かれる中国語文献が《湖雅》(1877年)しかなかったからである。
舶来渡来説
《湖雅》は浙江省北部の湖州の物産辞典である。その「造醸」の属に「みりん」が「焼酎」の次に立項されているが、『駒井日記』とは約300年の差がある。そこで《湖雅》より古い文献を探り、まとめたのが下の年表である。
日本で中国語を学ぶためにつくられた学習書(《游焉(ゆうえん)社常談》《崎港(きこう)聞見録》)のほか、《鉄花仙史》《客座贅語(ぜいご)》《事物紺珠(かんじゅ)》《世事(せじ)通考》《通雅》などに「みりん」が見られる。しかし、その表記はさまざまである。
現代中国方言
中国伝来説を難しいものにしているもう一つの理由に、現代の中国にみりんの存在の報告がないことがあげられる。そこで、中国の方言を調べると、呉語、温州方言にみりんの末裔と思われるものがあった。

おわりに
これまでの考察で、国内起源説に比して劣勢であった舶来渡来説が説得力を持つようになったと思われる。ただし、中国語資料の「みりん」がいろいろな表記であるということは、音声が主要な伝達手段であったと考えられる。そこで考えられるのが沖縄=琉球王国の存在である。琉球には中国や海外諸国との政治的な交流を主とする歴史資料である「歴代宝案」が残っている。先行研究によれば「蜜林檎香白酒二十一埕、蜜林檎香紅酒二十九埕」を贈るという、シャム国から琉球へあてた1479年と推定される書状の記載が見られるという。
「みりんの起源はシャム、語源は中国、育成は日本」となるのではないだろうか。