江戸の食を彩る かつお節・おいしさのひみつ
日程 | 2025年6月28日 |
---|---|
場所 | キッコーマン株式会社東京本社 KCCホール |
講師 | 株式会社にんべん 研究開発部 荻野目 望先生 |
主催 | キッコーマン国際食文化研究センター |

1. カツオとかつお節の歴史・食文化
日本人とカツオは古代からの付き合いがあり、縄文時代の貝塚からはカツオの骨が出土している。そのまま干す、煮て干す、煮汁を濃縮する、というように加工方法を工夫し、室町時代後期からは焙乾(ばいかん)、江戸時代にはカビ付け法が導入された。かつお節の完成、こいくちしょうゆと砂糖やみりんの甘味調味料の発展・普及が重なり、江戸の料理文化は発展した。
西日本では昆布を使い、東日本ではかつお節を使う背景としては、昆布を輸送する北前船の航路が日本海側の西廻り航路であったこと、かつお節の産地が江戸の周辺にあったこと、武士が多い江戸で「カツオ(勝男)」は縁起が良く好まれたことなどがある。

2. かつお節の科学
カツオは非常に成長が早い魚で、6~8年生きるといわれている。カツオ漁のメインは巻き網漁で、資源保存の観点から集魚装置の使用制限も行っている。現在、かつお節向けのカツオ水揚げ量が多いのは、焼津(静岡)、枕崎(鹿児島)、山川(鹿児島)で、ほとんどが遠洋でとれた凍結カツオである。 凍結カツオはかつお節製造に最適な状態に解凍し、以下の流れでかつお節を製造する。
① 生切り(なまきり) 3枚におろし、背側と腹側に切り分ける。カツオ1尾から4本(背側2本、腹側2本)の本節がつくられる。背側を背節、腹側を腹節と呼ぶ。
② 籠立て(かごたて) 切り分けたカツオを煮籠(にかご)に並べる。
③ 煮熟(しゃじゅく) 煮籠を8~10枚重ねて、60~90分煮る。
④ 骨抜き 冷やして肉を引き締めた後、骨を抜く。
⑤ 焙乾(ばいかん) コナラ・クヌギ・桜などの薪を燃やし、熱と煙でカツオの水分を抜く。
⑥ 修繕 骨抜きなどで損傷した部分を修繕する。煮熟肉と生肉をすり潰して混ぜた「そくい」を使い、形を整える。
⑦ 焙乾・荒節(あらぶし) さらに焙乾を続ける。約1か月かけ10~15回繰り返す。水分が約25%まで低下したものを「荒節」と呼ぶ。
⑧ 表面削り・裸節(はだかぶし) カビがつきやすいよう表面のくん煙成分や脂肪分を削り落とす。表面を削った状態を「裸節」という。
⑨ カビ付け・枯節(かれぶし) 優良鰹節カビを植菌することでさらに水分を抜き、天日干ししてカビを払う。カビ付けと天日干しを繰り返す。カビ付けを2回以上行ったものを枯節、一般的には3回以上行ったものを本枯鰹節と呼ぶ。(株式会社にんべんでは、4回以上行った節を本枯鰹節と呼ぶ。)

3. かつおだしの試飲・だし引きの科学
今回は荒節(厚削り)、荒節(薄削り)、本枯節(薄削り)の3種類のかつおだしを試飲する。まずは、香りと色の違い、その後、味わいの違いを見る。さらに、しょうゆを数滴入れ味わいの変化を体験する。かつお節のイノシン酸、しょうゆのグルタミン酸の相乗効果で、劇的に味が変わる。
だしをとる際は、水の3%量のかつお節を入れるのが一番効率的。二番だしをとるときは、少量のかつお節を追加すると香りづけになる。
①かつお一番だしの引き方
鍋の水が沸騰したら、火を止める。水に対して、3%の削り節を投入し、1~2分間おく。ざるにガーゼやキッチンペーパーをしいて、削り節をこし1分間おいた後、絞らずに使用する。
★ポイント:香り重視のだしの加熱時間は短めに
②かつお二番だしの引き方
一番だしのだしがらに、一番だし時の用水の1/2量の水を加えて、沸騰後、弱火で3~5分間煮出し火を止める。新しい削り節(一番だし時の1/6程度)を加えて1~2分間おく。ざるにガーゼやキッチンペーパーをしいて、削り節をこし1分間おいた後、軽く絞る。
★ポイント:少量の新しい削り節を加えて香りよく(追いがつお)
③一般的な厚削りだしの引き方
一般的な厚削りは0.8~1.0㎜の厚さがあり、この場合は、40分ほど微沸騰状態でだしを引く。
(株式会社にんべんの厚削りは0.4㎜程度の厚さなので、20分ほどだし引きを行う。)

4. 削り節の科学
カツオを乾燥させていくと、皮と身は縮まるが、その間にある皮下脂肪は縮まない。油が多いカツオは表面の皮のしわが多くなる。しわが少なく、形がよいものがおすすめ。形がよいのは、製造工程で丁寧に扱われている証拠でもある。また、かつお節の水分量は音に出る。よいかつお節は、軽く打ち合わせると澄んだ固い音がする。
かつお節の香気成分は約400種類以上あるといわれている。多種類の成分の複合体であることから、かつお節本来の香りを合成することは難しいといわれる。削り節は温度や空気によって劣化が進むため、削り節を開封した後は、袋の空気を抜き、冷蔵庫に保管することが望ましい。
5. かつお節、だしの不思議な力
かつおだしはさまざまな栄養成分があり、うまみがあることに加え、かつおだしに含まれるヒスチジンの塩味増強作用によって、減塩効果があることがわかっている。ただし、開封後に時間がたった削り節を使用した場合や水出しのかつおだしには、減塩効果はない。また、調理における抗酸化効果、酸味や酸臭の抑制効果、苦み除去効果、さらには疲労の改善や高血圧の抑制、攻撃行動の低下なども確認されている。
うまみがあっておいしく、香りがあっておいしく、塩分も少なくておいしく感じるかつおだしを、ぜひ生活の中で活用していただきたい。