日本の醤油の地域特性

日本の醤油はJAS規格により5種類に分けられているが、一般に醤油と言えばその生産量の8割を占める濃口醤油を指す場合が多い。他の4種類の醤油(淡口醤油、再仕込み醤油、溜醤油、白醤油)は使用される地域が限定されていたり、特徴のある醤油であることから全国で普遍的に使用されている訳ではない。一方、濃口醤油はJAS規格における同一の規格で造られており、全国で使用されているが、地域により塩味が強い、甘味が強いなどの地域特性があると言われている。特に、“九州の醤油は甘い”と良く聞くが、実際に、鹿児島県の醤油メーカーで最も売れているという醤油をきき味する機会があったが、非常に甘くて驚いた記憶がある。これまで、全国各地で使用されている醤油について、広範に成分分析および官能評価を行った報告はない。今回の研究成果は、日本の醤油の地域特性を明らかにする上で、非常に重要な意味を持つものと考えている。

醤油は、塩辛味を持つ調味料であるが、強い旨味と、甘味や酸味、さらに発酵香を併せ持つ複雑な調味料である。従って、醤油の規格において、成分分析だけではなく官能評価も重要な役割を果たしており、JAS規格の品質審査には官能評価が課せられている。しかし、醤油の官能評価は、醤油に多く含まれる食塩の為、塩辛さが口に残りなかなか厳しいものがある。今回の醤油の官能評価において、50名もの一般消費者の方々にパネルとして参加頂き、多数の醤油の官能評価に協力して頂いた事に対し、改めてパネルの方々に敬意を表するものである。

今回の研究において、日本各地で使用されている醤油が官能的な特徴により8グループに分類され、さらにそれらの使い方により日本が3つの地域(①塩味が強い醤油のみを使用する地域、②塩味が強い醤油とそれ以外の醤油を併用する地域、③塩味が強い醤油以外を主に使用する地域)に分けられることが初めて明らかになった。成分分析からも首都圏を中心に塩味が強い醤油が好まれ、北海道や九州などの首都圏から離れた地域では、旨味や甘味が強い醤油が好まれており、官能評価による分類と一致していた。これらの研究結果は、日本各地の醤油の呈味についての科学的な分析による客観的な分析結果で、日本の醤油の地域特性を解明する上で貴重なデーターであると考えている。

醤油は各地の食文化と密接な関係があり、その品質にも影響していると考えている。今回は、統計資料の関係から、日本を10地域に分けて分析を行ったが、今後、県単位ではなく気候の違いや地形による食文化の違いなど、地域の分け方を検討することにより、さらに日本の醤油の地域性が明確になるものと考えている。一方、室町時代に味噌の桶に溜まった溜りから溜醤油が生まれ、江戸時代に入り濃口醤油が生まれ、強い旨味に加え色と香りに優れた濃口醤油が全国に広まった。現在では、愛知、三重、岐阜の東海3県だけに溜醤油を使う食文化が残っており、また、同じ濃口醤油でも日本各地で地域特性が存在する。醤油の地域特性を明らかにする上で、改めて各地の醤油の歴史的背景についても詳しく調べる必要があると考えている。醤油の醸造技術の解明や改善については多くの研究がなされ、その成果は醤油の醸造技術の近代化に貢献してきた。一方で、日本の醤油の地域特性に関する研究は余り行われて来なかった。和食を支える代表的な調味料である醤油について、改めて地域特性とその形成要因を明らかにすることは、醤油の更なる発展の為にも重要な研究課題であると考えている。