研究機関誌「FOOD CULTURE No.26」しょうゆと郷土料理 一般成分分析と官能評価によるしょうゆの地域別特徴

キッコーマン㈱ 研究開発本部 大友 裕絵、今村 美穂
キッコーマン食品㈱ 商品開発本部 佐々木 努、生産本部 木津 邦知

しょうゆと郷土料理 一般成分分析と官能評価によるしょうゆの地域別特徴

Ⅰ.はじめに

日本のしょうゆはJAS規格により5種類のしょうゆ(こいくち、うすくち、たまり、さいしこみ、しろ)に分けられ、近年では、だししょうゆ(しょうゆ加工品)もしょうゆの代わりに使用されている1)。また、5種類のしょうゆの中で、こいくちしょうゆは全国で消費されるしょうゆの約8割を占めるが、塩味が強い、甘味が強い等、地域により品質が異なると言われている1)。しかし、しょうゆの品質の地域による違いを科学的に示した報告はない。そこで、しょうゆの品質の地域性を科学的に明らかにすることを目的として、日本各地で使用されるしょうゆを対象に成分分析と官能評価を行った。

Ⅱ.成分分析

各地域において消費されているしょうゆの特色を調査するために、地域ごとのしょうゆ売れ筋商品リストを作成し、各地の上位5製品の平均値を、その地域の代表成分値とした。各地域と上位5製品のシェアは次の通り。
北海道(44.3%)、東北(41.7%)、北陸(26.9%)、関東外郭(38.2%)、首都圏(44.2%)、中京(44.2%)、近畿(49.4%)、中国(27.0%)、四国(40.9%)、九州(19.1%) ※日経POS情報サービス(2011~2013年、しょうゆ分類、但し北陸は2012~2013年)のデータをもとに自社にて集計した。
しょうゆの一般分析は、JAS規格にある「全窒素分」、「食塩濃度」、「色度」が一般的であるが、「食塩濃度」以外地域による傾向が見られなかった。しかし、しょうゆの風味に関係する「甘味」、「しょうゆの醸造香(HEMF)」、「旨味」などには、興味深い傾向が見られたので、食塩濃度と合わせ、以下にそれを示す。

【食塩濃度(塩味)】
首都圏、関東外郭で使われるしょうゆの食塩濃度が高く、塩味の強いしょうゆが好まれていることが分かる。それに対して北海道では昆布しょうゆなどのだししょうゆが好まれる傾向にあり、また近畿では減塩しょうゆが上位に含まれていたため、平均食塩濃度が低くなっている。九州では全体的に食塩濃度が低めのしょうゆが多い。(図1)

図1 各地域の上位5品目の食塩濃度の平均

【糖濃度、グリチルリチン濃度(甘味)】
しょうゆに含まれる主な単糖類および二糖のシュークロースと、甘草の有効成分であるグリチルリチンの濃度を測定し、その濃度をグルコースの甘味に換算した総量を比較した。その結果、九州で使用されるしょうゆは他の地域に比べ圧倒的に甘味が強く、2番目以降の地域に2倍近い値を示した。続いて中国、四国のしょうゆの甘味が強く、反対に東北、関東外郭、首都圏、中京は甘味が弱い傾向にあった。(図2)

【レブリン酸濃度(アミノ酸液)】
レブリン酸は糖が塩酸分解されたときに生成される物質であるが、醸造しょうゆには含まれないため、アミノ酸液が含まれているかを調べるときに分析する成分として知られている。レブリン酸量から北陸、東北、中国、九州のしょうゆはアミノ酸液の含まれる混合しょうゆや混合醸造しょうゆが使用されていることが分かる。(図3)

図2 各地域の上位5品目の甘味のグルコース換算濃度の平均値
図3 各地域の上位5品目のレブリン酸濃度の平均値

【HEMF濃度(しょうゆ醸造香)】
前述のレブリン酸が含まれるしょうゆが好まれる地域である北陸、東北、中国、九州では、アミノ酸液が含まれるため、醸造しょうゆの割合が少なくなる。そのため、代表的な醸造香であるHEMF(4-Hydroxy-2(5)-ethy-5(2)-methyl-3(2H)-furanone)が低い傾向にあった。北海道にはだししょうゆの類が多いため、醸造しょうゆの混合割合は少なくなっているものと考えられる。関東外郭、首都圏、中京、近畿で使用されているしょうゆではHEMF濃度が高く、醸造しょうゆが好まれていることが分かる。(図4)

【グルタミン酸、核酸濃度(旨味)】
グルタミン酸ナトリウム(MSG)と核酸のグアニル酸(GMP)、イノシン酸(IMP)は相乗的に旨味を強める。北陸、中国、四国、九州などで使われているしょうゆは、グルタミン酸ナトリウムと核酸がバランス良く使われており、強い旨味を感じるしょうゆが多い。それに対して、首都圏、関東外郭、中京、近畿のしょうゆは核酸を使用しているしょうゆが少ない。(図5)

図4 各地域の上位5品目のHEMF濃度の平均値
図5 各地域の上位5品目の核酸濃度、グルタミン酸濃度の平均値からの旨味換算値

  1. MSG換算のうま味強度=u+1200u×v、ここでu:MSGの濃度(g/dl)、v:IMPの濃度(g/dl)、GMPのうま味強度は、IMPの強度の2.3倍として計算する2)。

【まとめ】

北海道:だししょうゆの影響で塩分少なめ、旨味強い。醸造香は最も弱い。

東北:塩分が高く甘味が弱いが、アミノ酸液が含まれるため旨味は弱くはない。

北陸:塩分は高いが、旨味が強く、関東よりは甘味も強い方である。

関東外郭:塩分が高く、甘味が弱い、醸造しょうゆが主流。

首都圏:塩分が高く、甘味が弱い、醸造しょうゆが主流。

中京:甘味と旨味は弱く、アミノ酸液も使用していないため、関東外郭、首都圏に近い。

近畿:甘味と旨味は弱く、アミノ酸液も使用していないが、塩味は多様性が認められる。

四国:旨味が強く、甘味も強めであるが、アミノ酸液は含まず、塩分も少なくない。

中国:甘味が強いが、旨味が最も強く、醸造香が弱く、アミノ酸液を含む。

九州:甘味が最も強く旨味も強いが、塩分少なめで、アミノ酸液を含む。

Ⅲ.官能評価

【各地域のしょうゆのグループ分けとその官能的特徴】
まず、上述成分分析に用いたサンプルと同様に日経POS情報サービス(2011~2013年、しょうゆ分類、但し北陸は2012~2013年)のデータをもとに自社にて集計した。10地域(北海道、東北、北陸、関東外郭、首都圏、中京、近畿、中国、四国、九州)から上位5サンプルを選定した。また、サンプルのシェア合計が40%以下の地域(北陸、中国、九州)については、シェア合計が40%になることを目安に最大5サンプルを追加し、のべ62サンプルを評価対象とした。評価は、13特性(アルコール臭、すーっとした香り、沢庵漬けのにおい、昆布の香り、鰹節の香り、沢庵漬け風味、昆布風味、鰹節風味、まろやかさ、塩味、旨味、甘味、べたつき)について各サンプルの強度を数値化した(評点法(9段階尺度))。なお、パネルは嗅覚、味覚の感度、及びしょうゆに対する感度を基準に一般消費者の中から選抜した(25~58歳の女性50名)。
13特性に関する強度データをクラスター分析に供したところ、のべ62サンプルは大きく2つに分かれ、細かくは8つのグループに分類された(図6)。また、有意差検定の結果、各グループの官能的特徴が明らかになった(表1)。グループ1~5は昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いことを特徴とした。その中でも、グループ1は鰹節の香りが強く、グループ2は沢庵漬け風味が強く、グループ4は鰹節風味、べたつきが弱く、グループ5は昆布の香りが強かった。グループ6、7は塩味が強いことを特徴とし、特にグループ6は沢庵漬けのにおいが強く、グループ7は刺激的な香りが強かった。なお、グループ8は1つのサンプルから構成されるため、有意差検定による特徴付けは行わなかった。

図6 階層型クラスター分析(Ward 法)により得られた樹形図を示した。
表1 各グループの官能的特徴有意差検定より、強い特性、弱い特性を示した(Kruskal-Wallis 検定、Steel 検定 p<0.05)。
グループ1 グループ2 グループ3 グループ4 グループ5 グループ6 グループ7
強い特性 鰹節の香り
昆布風味
鰹節風味
まろやかさ
旨味、甘味
べたつき
沢庵漬け風味
昆布風味
鰹節風味
まろやかさ
旨味、甘味
べたつき
昆布風味
鰹節風味
まろやかさ
旨味
べたつき
昆布の香り
昆布風味
まろやかさ
旨味、甘味
沢庵漬けのにおい
塩味
アルコール臭
すーっとした香り
塩味
弱い特性 アルコール臭
すーっとした香り
沢庵漬けのにおい
塩味
アルコール臭
すーっとした香り
鰹節風味
塩味
べたつき
アルコール臭
沢庵漬けのにおい
塩味
鰹節風味 昆布の香り/風味
鰹節の香り/風味
沢庵漬け風味
まろやかさ
旨味、甘味
べたつき
特徴 鰹節の香りが強い 沢庵漬けの風味が強い 鰹節風味、べたつきが弱い 昆布の香りが強い 沢庵漬けのにおいが強い 刺激的な香り(アルコール臭、すーっとした香り)が強い
昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱い 塩味が強い

【各地域で使用されるしょうゆの官能的特徴】
各グループのシェア合計を地域毎に算出し、値が大きい順に図7に示した。その結果、塩味が強いしょうゆ(グループ6、7)の使い方により、10地域は以下の3つに分類された。

(1)塩味が強いしょうゆ(グループ6、7)のみを使用する地域:東北・関東外郭・中京
東北、関東外郭では、塩味が強いしょうゆの中でも、グループ7(刺激的な香りが強い)、グループ6(沢庵漬けのにおいが強い)の順に使用され、中京は、その逆順であった。

(2)塩味が強いしょうゆとそれ以外のしょうゆを併用する地域:北陸・首都圏・近畿・四国
北陸では、塩味が強いグループ6(沢庵漬けのにおいが強い)、グループ7(刺激的な香りが強い)に次いで、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ2(沢庵漬け風味が強い)、グループ3の順に使用され、5番目にグループ8が使用された。
首都圏は、塩味が強いグループ7(刺激的な香りが強い)、グループ6(沢庵漬けのにおいが強い)に次いで、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ4(鰹節風味、べたつきが弱い)が使用された。
近畿、四国は、塩味、刺激的な香りが強いグループ7、グループ8、そして塩味、沢庵漬けのにおいが強いグループ6の順に使用される点が共通した。しかし、次に使用されるしょうゆが異なり、近畿は昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ4(鰹節風味、べたつきが弱い)、グループ1(鰹節の香りが強い)の順に使用され、四国はその逆順であった。

(3)塩味が強いしょうゆ以外を主に使用する地域:北海道・中国・九州
北海道は、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ5(昆布の香りが強い)、塩味、刺激的な香りが強いグループ7の順に使用された。なお、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ5(昆布の香りが強い)は、北海道のみで使用された。
中国は、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ3、グループ1(鰹節の香りが強い)の順にシェアが高く、次いで塩味が強いグループ7(刺激的な香りが強い)、グループ6(沢庵漬けのにおいが強い)の順であった。さらに、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ4(鰹節風味、べたつきが弱い)の順に使用され、6番目にグループ8が使用された。
九州は、昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ2(沢庵漬け風味が強い)、グループ3の順にシェアが高かった。次いで、塩味が強いグループ6(沢庵漬けのにおいが強い)、グループ7(刺激的な香りが強い)の順に使用され、5番目に昆布風味、まろやかさ及び旨味が強く、塩味が弱いグループ4(鰹節風味、べたつきが弱い)が使用された。

図7 各地域で使用されるしょうゆの官能的特徴

【まとめ】

日本各地で売れているしょうゆは、官能的特徴により8グループに分類できること、そしてそれらの使い方により、日本の10地域は3つに分けられることが明らかになった。なお、ほとんどの地域は塩味が強いしょうゆを中心としたが、北海道、中国、九州では塩味が強いしょうゆ以外のしょうゆを中心とした地域であった。さらに、これら3地域はそれぞれ品質の異なるしょうゆを中心に使用することが分かった。今後、これらの地域における歴史や風土、料理などを研究することにより、何故これらの地域でそのしょうゆ文化が形成されたのかを明らかにしたい。
また、山により分断された地域は、気候の違いがあり、地域間の交流が困難であるため、食文化に違いがあることが報告されている3)。その食文化の違いは、しょうゆの品質にも影響している可能性がある。今回の研究では、日本を10地域に分類したが、今後地域の分け方を検討することにより、詳細な地域性を明らかにできると考えられる。

おわりに

日本各地で使用されるしょうゆの官能的な特徴を科学的に明らかにするため、各種成分分析および官能評価を行った。これら2つの試験において、サンプルの選定基準や結果の解析方法は異なったものの、①日本各地のしょうゆは、特に塩味や旨味で特徴づけられる、②首都圏を中心に塩味が強いしょうゆを好む傾向があり、首都圏から離れた地域では、旨味や甘味が強いしょうゆが好まれる、という結果は一致した。これら以外の結果については、それぞれの試験から異なる知見が得られており、双方を照らし合わせて、各地域のしょうゆの特徴を読み解く必要があると考えられた。
また、今回は「しょうゆ」そのものを対象とした試験を行ったが、しょうゆは通常、何かの食材と一緒に調理して食される。今後は、今回明らかにしたしょうゆの品質の違いが、各地域の「食」や「食文化」にどのような影響を与えているかについて検証したい。

参考文献
  1. 1しょうゆの不思議 . 日本醤油協会 , 東成社 , . 2012, 214p.(2012)
  2. 2S.Yamaguchi, J food sci, 32, 473-478 (1967)
  3. 3武田珠美 , 日本調理科学会誌 . 45(, No.1), 65-67, (2012)