しょうゆの常識を覆す!血圧降下ペプチド高含有しょうゆの開発

しょうゆで人々の健康的な生活をサポートしたい

しょうゆは和食にとって欠かせない調味料であるとともに、現代では世界各国の食文化と融合した調味料として、世界中でファンを増やしています。しかしながら、しょうゆに含まれる塩分が、血圧上昇に関係しているイメージを持たれる場合がありました。日本だけでなく世界各国で血圧が高めの方が年々増加しており、健康志向が高まっています。そのような中で、血圧を下げる機能を持つしょうゆの開発は私たちの長年の夢でした。

「しょうゆで機能性を発揮させる」という難題への挑戦

しょうゆで機能性を発揮させるためには多くの困難がありました。例えば、しょうゆは機能性飲料などと異なり、一日あたりの摂取量が少ないため、充分な量の有効成分を含有させるのが難しく、また、調味料としておいしさを損ねる有効成分は採用できませんでした。研究員たちの苦戦が続く中、一つのひらめきが突破口となりました。研究に着手してから3年目のことでした。

しょうゆ醸造中に生まれるペプチドに注目!

当時、血圧が高めの方に適する特定保健用食品(トクホ)として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドが注目され始め、ペプチドの中でも特定のアミノ酸を有するものがアンジオテンシン変換酵素阻害作用、ひいては血圧降下作用を発揮するという科学的知見が広く認められてきました。

しょうゆには醸造中に生まれるペプチドが微量に含まれていますが、はっきりと血圧を下げるには含有量が不十分でした。そこで「しょうゆに含まれるACE阻害ペプチドを増やせば、血圧降下作用が発揮できる」と考えました。キッコーマンの長年の醸造研究で蓄積してきた知見を活かし、数百回に及ぶ試験醸造を繰り返し、大豆由来のACE阻害ペプチド(大豆ペプチド)が多く生まれる醸造方法を完成させました。

ポイント①

ペプチドってなあに?

ペプチドはアミノ酸がいくつかつながった成分で、タンパク質を酵素の力で分解してつくることができます。しょうゆ以外にもチーズや味噌などの発酵食品に天然に存在する成分です。また、食事で摂取した様々なタンパク質は、胃や腸の酵素によって体内でペプチドに分解されます。 キッコーマンでは、しょうゆ醸造の過程で大豆タンパク質が麹の酵素によって分解して生じる「大豆ペプチド」に注目しました。

ポイント②

アンジオテンシン変換酵素ってなあに?

体内に存在する血圧上昇に関与する酵素で、ACEと略されます。血圧上昇ホルモン(アンジオテンシンII)を増加させますが、ACE阻害ペプチドを摂取すると、血圧上昇ホルモンの産生が抑制され、血圧が低下することが知られています。なお、全てのペプチドがACEを阻害するわけではなく、特定のアミノ酸配列を持ったものがACE阻害ペプチドとして作用します。

血圧があがるメカニズム
大豆ペプチドが血圧をさげるメカニズム

作用メカニズム研究と血圧降下作用の評価

広範なエビデンスを揃えるため、開発チームを徐々に増員し、その全員が目標に向かって様々な実験を精力的に行いました。例えば、ACE阻害活性の確認や、血圧降下作用に寄与の大きなペプチド(GYおよびSY)の単離同定などです。そして、血圧が高めの方132名に被験者として協力いただき、ヒト試験を実施しました。被験者が大豆ペプチド高含有しょうゆを1日8ml、12週間毎日摂取した際の血圧降下作用を評価した結果、大豆ペプチド高含有しょうゆ摂取群の収縮期血圧は、摂取開始時と比べて平均7.6mmHgの有意な低下を示し、対照の減塩しょうゆ摂取群に比べても有意に低下することが示されました。(出典:内田理一郎ほか:大豆発酵調味液(大豆ペプチド含有)配合減塩しょうゆの正常高値血圧者および軽症高血圧者に対する有効性と安全性、薬理と治療、36、 837-850 (2008)、訂正 薬理と治療、39、1063 (2011))

しょうゆ類で初のトクホ表示許可を取得し、商品化を実現

血圧が高めの方に適した機能を消費者にわかりやすく伝えるために、商品ラベル等にその機能を明示できる、トクホの表示許可取得に取り組みました。当時、血圧に関する機能をうたったトクホの商品形態としては飲料やサプリメントしか存在せず、前例の無いしょうゆ等の調味料でのトクホは、未踏の領域への挑戦となりました。各省庁や関係機関による審査を経て、しょうゆ類で初のトクホ表示許可を取得しました。

トクホ申請と並行して、工場での生産技術の確立も進めました。実験室規模での試作から、工場での実生産規模にスケールアップする点でも多くの困難が伴いましたが、関係者一丸となって様々な課題をクリアし、安定的な製造技術と体制を確立しました。

開発をスタートしてから10年、ついに「キッコーマンまめちから大豆ペプチドしょうゆ」として商品化しました。一般的なしょうゆのイメージを覆す画期的な商品であることから、テレビ番組や新聞記事で数多く取り上げられました。

「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。」

摂取上の注意

  • 本品は多量の摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進できるものではありませんので、1日の摂取目安量を守ってご使用ください。
  • 血圧が高めの方の食事は減塩が基本です。多量摂取により食塩摂取量が多くなりますので、ご注意ください。
  • 体質によりまれにせきがでることがあります。その際は医師にご相談ください。
  • 妊娠中または妊娠の可能性がある方、腎機能が低下している方及び高血圧症の治療を受けている方は医師にご相談の上ご使用ください。

地球社会にとって存在意義のある企業をめざして

日本においては、収縮期血圧水準が2mmHg低下すれば、脳卒中死亡率が6.4%減少すると推計されています。(出典:「健康日本21企画検討会・健康日本21計画策定検討会報告書」)高血圧は日本だけでなく海外においても問題となっており、今後、本技術を展開することによって、世界の人々の食生活と健康増進に貢献できると期待しています。

キッコーマンの経営理念のひとつに「地球社会にとって存在意義のある企業をめざす」というものがあります。この理念のもと、これからも新たな研究開発に挑戦しつづけます。

研究論文

アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド高含有醤油の血圧降下作用

著者
仲原丈晴、内田理一郎
掲載誌
日本醸造協会誌, 111, 302-307. (2016)

学会発表

これらの研究は、日本農芸化学会2016年度農芸化学技術賞を受賞しました。
2016/3/27
日本農芸化学会2016年度大会
醸造技術の革新による血圧降下ペプチド高含有醤油の開発