キッコーマン食文化講座

大豆の加工 ~硬い大豆をおいしく食す~

日程 2012年12月18日
場所 野田本社
講師 大島秀隆先生
主催 キッコーマン国際食文化研究センター

第1回目にも述べましたが、種子は次世代へ種を保存するための大切なものであり、果皮や種皮によって外界環境、外敵から身を守っています。 豆類の多くは硬い莢に包まれています。中身の大豆(種子)は比較的薄い種皮に包まれ、子葉部は硬い構造となっています。種皮の中はこれから葉、芽、根になる部分で栄養素が詰まっていて、発芽環境が整ったらすぐに生長できるようになっています。逆に種皮を剥がすと酸化を受けやすく、成分の劣化が起こりやすくなります。特に大豆油の酸化による青草臭の発生は時間との勝負ですので、私たちがおいしい豆乳を作る際は脱皮時から手早く処理をするように心がけています。

大豆は乾燥状態では硬く加工しにくいものです。そのため水に浸けふやかして柔らかくします。中まで水を吸わせることでその後の加熱(煮る)での熱を伝わりやすくします。煮ると中まで柔らかくなります。黄な粉を作る場合には「炒り」ますが、あまり柔らかくはなりません。しかし大豆を加熱する理由にはほかにもあるのです。未加熱の大豆には消化酵素「トリプシン」の働きを阻害する物質「トリプシンインヒビター」が含まれています。そのため未加熱の大豆を摂取すると消化不良を起こすことがあるのです。加熱をすることでトリプシンインヒビターは壊れ、働かなくなります。もし節分に大豆を撒くことがあったら、炒り豆にしてください。ちょっと摘まんでも安心です。

大豆は加熱(蒸煮)することで柔らかくなり、加工しやすくなります。豆乳や豆腐もそうですが、発酵食品の納豆も大豆を柔らかくすることで納豆菌が生えやすくなり発酵が進みます。味噌や醤油も同様です。発酵に必要な微生物が繁殖し発酵が進むことで、たんぱく質や糖質が分解され旨味となっていきます。これらの大豆発酵食品は「たんぱく質」を利用した物で、風味や保存性を高めることができます。

ヨーロッパでは大豆を食べる習慣はありませんが、乳製品の発酵食品が多くあります。元々、彼らは牧畜民族で生乳は手に入れやすい環境でした。生乳を保存できるようにするために知恵を絞りヨーグルトやチーズを作ったのでしょう。

日本は長きにわたり大豆を食し、大豆発酵食品の食経験もあります。ヨーロッパの牧畜民が生乳から作ったヨーグルトを、日本人が大豆から作っても、私には至極当たり前に思えてなりません。私たちは豆乳をベースとした発酵食品の開発にも力を入れていきたいと考えています。