自然がささえる草原の食卓
食べものの調味/まとめ
食べものの調味
シンプルな味付けと確かな味覚
[塩味]
料理の味つけの中心は塩で、日本のものよりマイルドです。岩塩を砕いて使うほか、精製され、ヨードを添加した食塩を購入する機会も増えてきました。食品添加物等を使う機会の少ない遊牧民は味覚が鋭敏で、茹でたヒツジ肉を食べて、その性別・年齢を当ててしまうほどです。
[酸味]
うどんの汁や「ショル」とよばれるスープに酸味を出す時は、「アロール」(酸っぱいチーズ)を細かく砕いて加えます。
[甘味]
遊牧生活では甘い物の入手が難しく、以前から子どもへの新年を祝う贈り物として飴が喜ばれてきました。現在ではロシア製の砂糖の入手が、より容易になりました。「ボールツオグ」(揚げドーナツ)をつくる時も、使われるようになりました。「ウルム」(乳脂肪を集めた乳製品)、「タラグ」(ヨーグルト)などで来客をもてなす時には砂糖を入れてすすめます。
また、家庭によっては、野生のネギが生える夏季に、このネギを「ゴリルティショル」(肉うどん)の薬味に利用するほか、野生のネギの一種「マンギル」を細かく刻み、塩を加えて保存し「ゴリルティショル」や、茹でたヒツジ肉を食べる時の薬味としている家庭もあります。
まとめ
遊牧民から自然と共存する大切さを学ぶ

モンゴルの伝統的な食文化は、草原が家畜を育み、家畜が人を養うといった、自然との共存によって成り立ってきました。 そのような遊牧生活も、近年変化をみせはじめています。1992年、モンゴルは社会主義国から民主主義国へと変わり、その後遊牧民の数は年々増加しました。そして生産した乳製品を販売する目的で都市郊外などに遊牧民が集中し、その付近の草原は家畜で過密状態となりました。このため草原は自然の回復力が追いつかずに荒れて、社会問題となっています。また夏は遊牧を行い、冬は集落に住む生活形態をとる遊牧民も増えてきました。
このように、モンゴルでは遊牧民の伝統的な生活を継続していくことが難しくなってきているのが現状です。しかし私たちが、人間本来の「豊かさ」や「尊さ」とは何か、ということを問いかけたとき、自然と共存しているモンゴルの伝統的な遊牧生活の中から、その答えを見つけ出すヒントが数多くあるように思えるのです。

石井智美 (いしいさとみ)
光塩学園女子短期大学
食物栄養学科
助教授
『内陸アジアの遊牧民の食生活―モンゴル遊牧民の食の現在について―』
石井智美、光塩学園女子短期大学紀要
『モンゴルを知るための60章』(明石書店) 金岡秀郎
『乳酒の研究』(八坂書房) 越智猛夫
『モンゴル人』(モンソダル出版) バーバル、ローゾン・エンフバト共著
『獣医さんのモンゴル騎行』(山と渓谷社) 野沢延行
『モンゴルの馬と遊牧民』(原書房) 野沢延行
『モンゴル草原の生活文化』(朝日選書朝日新聞社) 小長谷有紀
『モンゴル万華鏡』(角川選書角川書店) 小長谷有紀
『発酵食品礼賛』(文春新書) 小泉武夫
『モンゴルの白いご馳走』(チクマ秀版社) 石毛直道他
大東正巳(写真家)
(株)モンゴルジュルチンツアーズ
石井智美