世界に先駆けて!糖尿病診断マーカーHbA1c酵素測定法の開発
糖尿病診断に役立つ研究をしよう!
糖尿病患者数は世界中で増加しています。糖尿病は早期に発見し、血糖値コントロールを行わないと、重篤な合併症を引き起こします。キッコーマンでは、これまでに自然界から新しい酵素を探索し、産業利用してきた歴史がありますが、酵素の研究を糖尿病診断に利用できるのではないかと考えました。
従来よりも簡便な酵素測定法を開発すれば、糖尿病の合併症に苦しむ人を少しでも減らすことができるのではないか?そんな想いを胸に、我々は新しい測定法の開発に取り組んでいます。
新しい測定法のポイントは、キッコーマンが発見した酵素!
糖尿病診断の指標とされるもののひとつが糖化ヘモグロビン(HbA1c)(①)です。このHbA1cの測定において、大量検体処理に適しており、検査コストも安くなると期待されていたのが酵素法で、医療の現場からも強く要望されていました。世界中で酵素法開発への挑戦が続く中、我々は「ジペプチド法」による新しい測定法を開発し、さらにこの測定法で使用する酵素「フルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)(②)」を発見し、世界に先駆けてHbA1c酵素測定法の実現に成功しました。
この「ジペプチド法」は血液中のHbA1cをプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)で分解し、出てくる糖化ジペプチドをFPOXで定量測定するものです。
簡便&安価&迅速であるという利点が評価され、現在では、キッコーマンのグループ企業が製造販売するFPOXが使用された、HbA1c測定試薬が世界各国で使われるようになってきました。
糖化ヘモグロビン(HbA1c)ってなあに?
糖尿病の診断は血液検査により行われ、血糖値と糖化ヘモグロビン(HbA1c)の値を指標とします。糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、血液中のヘモグロビンが糖と結合した成分で、血糖値が高いと結合しやすいといわれています。その量は過去1~2カ月の平均血糖値を反映することが知られており、糖尿病診断の指標としてだけでなく、糖尿病治療の指標としても注目されています。
フルクトシルペプチドオキシダーゼ(FPOX)ってなあに?
糖化ジペプチドに反応することができる酵素を探索し、キッコーマンが新たに発見した酵素です。
さらなる簡便&安価&迅速を目指して
既にジペプチド法によるHbA1c測定キットは世界各国にて、糖尿病検査の現場で使われるようになってきています。しかし、医療の現場ではさらなる簡便&安価&迅速が求められており、その解決の一つの糸口として、プロテアーゼ分解しなくても、HbA1cに反応する酵素を探索し、「A1cオキシダーゼ(③)」を開発しました。この新しい酵素を用いて、より簡便な次世代酵素測定法「ダイレクト法」が展開できるよう研究を進めています。
A1cオキシダーゼってなあに?
HbA1cは大きなタンパク質分子であり、これまでに直接働いて測定可能な酵素は存在しませんでした。そこで、まずは糖化ジペプチドに働くFPOXのタンパク質立体構造の詳細な解析を京都大学と共同で進めました。この解析結果を利用して、これまでに反応しなかったHbA1cという大きなタンパク質分子に直接働くように酵素を進化改良させ、世界に先駆けて、酵素「A1cオキシダーゼ」を創出することができました。
糖尿病の予防を通じて、「おいしい記憶をつくりたい。」
糖尿病を発症してしまうと、どうしても食事が制限されてしまいます。キッコーマンのコーポレートスローガンは「おいしい記憶をつくりたい。」です。糖尿病の予防を通じて、消費者の方々に「おいしい記憶」をつくって頂くためのサポートをしていきたいと思っています。
これらの研究は、公益社団法人日本生物工学会2013年日本生物工学技術賞を受賞し、2015年日本生物工学会大会トピックスに選定されました。
研究論文
「新規フルクトシルペプチドオキシダーゼの開発とそれを用いた糖尿病診断法の構築」
著者: 五味恵子、廣川浩三、一柳敦、荒井あゆみ、梶山直樹
掲載誌: 日本生物工学会誌 第92巻 第2号: 62-68 (2014).
学会発表
2013/9/18
第65回日本生物工学会大会
新規フルクトシルペプチドオキシダーゼの開発とそれを用いた糖尿病診断法の構築
2015/10/27
第66回日本生物工学会大会
プロテアーゼを必要としないHbA1c測定法の開発