乳酸菌
乳酸菌は免疫を活性化する
乳酸菌はヨーグルトや漬物などに利用されていますが、しょうゆ醸造においても、味に深みを与え香りを引き立てる役割を担っています。そんな乳酸菌は、近年免疫を活性化するものとして注目を集めています。
様々な要因で免疫力は低下する
健常な状態では、感染に抵抗する免疫力と、それがいき過ぎたときに起きる過剰な炎症を抑える免疫力が、双方十分に備わっています(図1)が、加齢やストレスなど、様々な要因で免疫力が低下することがあります。感染に抵抗する免疫力が低下した場合は、ウイルスや細菌への対応が十分でなくなり、これらに感染してしまいますし、過剰な炎症を抑える免疫力が低下した場合は、炎症が過剰に起こり、アレルギーや自己免疫疾患を発症します(図2)。
Pediococcus acidilactici K15(K15株)
生体内では複数の免疫細胞が働いていますが、その中に、生体内に侵入した異物を食べて認識し、自身が活性化することで、他の免疫細胞に攻撃の指示を出す樹状細胞があります(図3)。当社はこの樹状細胞を活性化する能力が高い乳酸菌株として、ぬか床から分離したK15株を選抜しました。
K15株(加熱殺菌)の免疫力調節作用
1. インターフェロンおよびインターロイキン12産生増強
樹状細胞は、骨髄系の樹状細胞(mDC)とプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の2種類が知られています。ヒトの2種類の樹状細胞mDCとpDCを用いてK15株(加熱殺菌)の免疫力調節作用を調べました。
まず、mDCにK15株を添加したところ、抗感染の働きを持つインターフェロンβ(IFN-β)と抗アレルギーの働きを持つインターロイキン12(IL-12)の遺伝子発現量がそれぞれ増加しました(図4)1)。
次いで、pDCにK15株を添加したところ、抗感染の働きを持つインターフェロンα(IFN-α)と抗アレルギーの働きを持つIL-12の産生がそれぞれ増加しました。(図5)2)。
以上のことと、その他の実験から、K15株は2種類の樹状細胞に認識されることで、インターフェロンやIL-12などを産生し、抗感染と抗アレルギー双方の免疫力を増強しうることがわかりました(図6)。
2. 唾液中IgA抗体産生増強
7名の被験者からのヒト末梢血単核細胞を用いて、乳酸菌で刺激したときに産生されるIgAの濃度を調べました。すると、K15株で刺激したときに、他の乳酸菌に比べて強いIgA産生を示しました(図7)3)。
その他の実験から、K15株は樹状細胞のIL-6とIL-10の産生を誘導し、IgA産生にも関与することも見出しました3)。
実際に臨床試験で唾液中の分泌型IgA量を測定し、効果を検証しました3)。20~64歳の男女を対象として、2016年8月~11月に、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を実施しました。K15株(約500億個/日)またはプラセボ(デキストリン)を12週間経口投与し、唾液を採取して分泌型IgAについて分析しました。
唾液中IgA濃度について、K15株群で試験食品摂取前に比べ有意な上昇が確認されました(表1)。
表1. 唾液中の分泌型IgA濃度(mg/dL, 平均値 ± 標準偏差)
群 | 摂取前 | 4週目 | 8週目 | 12週目 |
---|---|---|---|---|
K15 | 27.2 ± 2.7 |
28.4 ± 2.9 |
31.6 ± 3.6 |
37.4 ± 4.1 ※ |
プラセボ | 31.5 ± 4.3 |
30.9 ± 3.6 |
32.5 ± 4.3 |
34.1 ± 4.2 |
また、幼稚園に通う3~6歳の健康な幼児を対象に、プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験を実施しました。インフルエンザ流行期を含む16週間(2016年11月~2017年2月)に、K15株(約500億個/日)株またはプラセボ(デキストリン)を経口投与し、健康観察日誌から体温、感冒症状、欠席日数、試験食品・乳酸菌食品摂取歴(制限を設けず)などを収集しました4)。
試験開始前後で唾液を採取できたK15株群81例、プラセボ群81例について解析を行ったところ、唾液中IgA濃度についてK15株群がプラセボ群に比べ有意に高い変化量を示しました(K15株群+3.20 mg/dL、プラセボ群-12.48 mg/dL、p=0.0443)(図8)。
発熱日数においては2群で有意な差は認めませんでしたが、他の乳酸菌食品の摂取が週1回以下である症例(K15株群36例、プラセボ群41例)のみで解析を行ったところ、K15株群で発熱日数が有意に短縮されていました(K15株群1.69日、プラセボ群3.17日、p=0.0423)(図9)。
3. スギ花粉症の症状抑制効果
次いで、K15株のスギ花粉症症状の抑制効果を検証しました。スギ花粉非飛散期(2019年10月~2020年1月)に、スギ花粉症症状を有する成人30名(20歳~64歳)を対象として、K15株(約500億個/日)またはプラセボ(デキストリン)を12週間経口投与し、ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験を行いました。スギ花粉症の症状誘発は人工曝露によって行いました5)。
曝露180分間での総鼻症状スコア(TNSS)、総症状スコア(TSS) (図10)、症状のつらさのVisual Analogue Scale (VAS)の総計は、プラセボ群では試験食品摂取前と後で差を認めませんでしたが、K15株群ではいずれも有意なスコアの低下を認めました。他覚的所見として、K15株群はプラセボ群と比較して、鼻汁量の低下が有意に大きいことがわかりました(図11)。また、総IgEおよびスギ花粉特異的IgE値を摂取前後で比較したところ、プラセボ群では有意差を認めませんでしたが、K15株群では有意な値の低下を認めました。以上の結果から、K15株による人工暴露によるスギ花粉症の軽減効果が確認されました。
Tetragenococcus halophilus KK221(Th221株)
当社は、しょうゆ醸造に関わる乳酸菌の健康機能について研究を行い、アレルギー症状の改善効果を有する乳酸菌を発見しました。
Th221株の免疫調節作用
Th221株の通年性アレルギー性鼻炎に対する効果を臨床試験で調べました6)。ボランティア45人を3つのグループに分け、それぞれにTh221株を全く含まないプラセボ錠剤、Th221株を低用量含む錠剤(20mg/日)、Th221株を高用量含む錠剤(60mg/日)を8週間摂取してもらいました。そして、本人の自覚症状と医師の所見をスコア化して効果を調べました。その結果、Th221株を高用量摂取したグループでは、自覚症状が改善し、また医師による鼻症状判定においてスコアが有意に改善していることがわかりました(図10)。また、アレルギーの指標と言われている血清総IgEの量も、高用量グループで低下していました。なお、これら臨床試験において、Th221株の摂取による副作用を示す人は一人もおらず、安全性も確認できました。
- 1Kawashima T, Ikari N, Watanabe Y, Kubota Y, Yoshio S, Kanto T, Motohashi S, Shimojo N, Tsuji N, Front. Immunol., 9, 27 (2018).
- 2川島 忠臣ほか、免疫賦活用組成物及びサイトカイン産生促進用組成物、特開2019-201590.
- 3Kawashima T, Ikari N, Kouchi T, Kowatari Y, Kubota Y, Shimojo N, and Tsuji N, Sci. Rep., 8, 5065 (2018).
- 4Hishiki H, Kawashima T, Tsuji N, Ikari N, Takemura R, Kido H, and Shimojo N, Nutrients, 12, 1989 (2020).
- 5山本 雅司ほか、K15乳酸菌(Pediococcus acidilactici K15)摂取によるスギ花粉症の症状抑制効果の検証、第70回日本アレルギー学会学術大会(2021)
- 6Nishimura I, Igarashi T, Enomoto T, Dake Y, Okuno Y, and Obata A, Allergol. Int., 58, 179-185 (2009).