官能評価

官能評価とは

官能評価とは、人の五感を使ってモノの特徴を分析する技術です。例えば、スイカやお汁粉に食塩を足すと甘味を強く感じます。スイカやお汁粉の中の甘味を呈する成分の量は変わってないのに、不思議です。私たちの身の回りには、物理的・化学的には説明できない現象がたくさんありますが、官能評価を用いると、モノに接した時に人が実際にどう感じるかを知ることができます。

QDA法(定量的記述分析法)

官能評価には様々な手法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。キッコーマンでは様々な手法の導入を進めており、目的に合わせて最も適切な手法を選択し、評価を行っています。ここでは、その中のひとつQDA法と呼ばれる手法をご紹介します。
QDA法では、通常の評価に必要な味覚や嗅覚の感度に加え、語彙力やコミュニケーション能力の高い人を専門パネルとして選抜します。専門パネルに製品から感じられる特徴を具体的な言葉として表現させ、パネル全体で合意が得られた特徴について強度を数値化させます。
QDA法から得られる情報量は、現在も既存の官能評価手法の中でもっとも多く、海外で記述分析というと、QDA法を指すほど一般的な手法です。しかし日本では導入事例が少ないのが事実です。キッコーマンでは皆様に「おいしさ」をお届するため、QDA法を含めた様々な官能評価手法を用い、人の感覚を数値化しています。数値化することで、人の感覚を科学的なデータとして取り扱うことが可能になり、様々な検討に活用することができます。

研究事例1

通常の脱脂加工した大豆を使ったしょうゆ(脱脂加工大豆しょうゆ)と大豆をまるごと使った丸大豆しょうゆの品質の違いについて、QDA法で明らかにしました。丸大豆しょうゆはどんな味や香りがするのか、脱脂加工大豆しょうゆとどのような点がどのぐらい異なるのか、といった特徴を明らかにしました1)

図1. 市販丸大豆しょうゆ(ピンク)と
市販脱脂加工大豆しょうゆ(青)の違い

研究事例2

「東の蕎麦に西のうどん」といわれるように関東では蕎麦が好まれます。また、関東の蕎麦つゆの調味では濃口しょうゆが一般的に用いられますが、その理由を「品質面」から科学的に明らかにしました。種類の異なる19種類のしょうゆを用いて蕎麦つゆを調製し、QDA法を用いて香りや味、食感の特徴を調べました。その結果、濃口しょうゆやたまりしょうゆ、再仕込み醤油などの色が濃いしょうゆを用いると、蕎麦つゆらしい品質となることが分かりました。また、その中でも濃口しょうゆは、玄人うけするような雑節感のあるものから、スタンダードにしょうゆの風味やコクが効いたもの、サッパリした鰹だしの香りが効いたものまで様々な品質を再現できることが明らかになりました2)。このような製品の特徴と嗜好調査を組み合わせることにより、消費者に好まれる商品群の特徴を明らかにする取り組みを行っています。また、味や香りの成分と製品の特徴の関連づけについても研究を行っています3)4)

図2. しょうゆを変えて調味したそばつゆの品質の違い
引用文献
  1. 1今村 美穂、 佐藤 常雄、 畑本 修: 醤油の研究と技術 37(1), 49-55 (2011)
  2. 2今村美穂: 食品工業 51(2), 69-74 (2008)
  3. 3S. Yamamoto, T. Bamba, A. Sano, Y. Kodama, M. Imamura, A. Obata, and E. Fukusaki: J. Biosci. Bioeng. 114(2), 170-175 (2012)
  4. 4K.Shiga, S. Yamamoto, A. Nakajima, Y. Kodama, M. Imamura, T. Sato, R. Uchida, A. Obata, T. Bamba, and E. Fukusaki: J. Agric. Food Chem, 62, 7317−7322 (2014)