韓国の発酵食品

- 展示期間
- 2002年7月~2003年2月
最近の日本では、さまざまな場所で韓国の食に出会うことができます。
日本と韓国は地理的にも近い国であり、同じ東アジアの文化圏にありながら、食生活の面ではいろいろな違いが見られます。
韓国料理は昔から身体を健やかに保つための料理「薬食同源」の思想が培われてきました。韓国の発酵食品を代表する「キムチ」は、長い年月をかけて完成された野菜貯蔵食品です。
冬の厳しい寒さが3、4か月も続く韓国では新鮮な野菜が不足し、それを補うために「キムチ」を漬けて食べるようになりました。
「キムチ」は韓国の家庭の常備食品で、造り方も家庭ごとにいろいろな工夫がなされ、母から子に伝承されている韓国食文化を代表するものといえます。
キッコーマン国際食文化研究センターの2002年度のテーマは、発酵調味料を核とした東アジアの「食」と「食文化」です。本年度第一回の「食文化セミナー」は「韓国の発酵食品」をテーマに、崔智恩(チェ・チウン)先生の講演会を開催しました。今回の展示は講演内容の概要をまとめたもので、韓国の風土と歴史が生んだ発酵食品を理解し、食を通じて日韓の文化交流の一助となれば幸いです。

崔智恩 チェ・チウン
韓国料理家。韓国文化コーディネーター。
主に韓国と日本で活躍中。
大学生のときに宮廷料理に興味を持ち、「朝鮮王朝宮中料理研究院」に入院、韓国の無形文化財、黄慧性氏の下で5年間助手を務める。
現在は、日本の雑誌、テレビ番組で韓国の料理や文化を紹介している。
著書に「韓国のおいしい食卓」(PARCO出版)、「韓国オモニの食卓」(PARCO出版)などがある。
韓国の食とは・・・
四季の変化に富み、旬の味を大切にしながら独自の食文化を発展させた韓国では、冬の間の生野菜の不足を補うため、保存食が発達しました。
崔:韓国人にとっての食事に対する考え方は、『薬食同源』の考えに基づいています。これは食べることが、単に食欲を満たすものではなく、自然の恵みを体に摂り入れることで、体調を整え、健康を保ち、体を癒す、という思想です。
韓国料理では、薬用効果のある食材・調味料・香辛料を組み合わせることによって、美味しく、しかも栄養的にもバランスのよい料理として発展させてきました。
そのため、韓国人は自分のコンディションによって、「いま元気がないからサムゲタン(鶏のスープ)を飲もう」とか、「二日酔いだからスケソウダラのスープを飲もう」などと考えます。薬を飲んだり、病院に行ったりするよりも、食事で自分の体調を調整することが日常的となっています。
また、普段、キムチと一緒に食事を摂ることに慣れている韓国人は、外国に行って食事をすると、なかなか食欲がわきません。例えば日本に行ってラーメンを食べると、どうしても食べ残しをしてしまうのです。普段は、ご飯や麺があれば、必ずキムチなどのおかずがあるからです。こんな時、キムチを持参すれば嘘のように食が進みます。
韓国には日本料理屋やパスタ店などもあり、利用することもあります。でも、外国に行ってキムチを何日か食べないでいると、どんどん元気がなくなってしまうので、外国にいても必ず韓国料理屋に行きます。そんな理由から韓国の家庭に世界の料理が入ってくることはなかなか難しいと考えられます。
薬用効果のある食材の例



キムチとは・・・
キムチの歴史は4000年ほど前からだと言われています。しかし、現在のように唐辛子を使用したキムチになったのは、16世紀に日本から唐辛子が伝わり、その後、本格的に食材として利用され始めた18世紀からだと言われています。
今では、韓国の日常の食事では、朝、昼、晩と必ずキムチが食べられています。



発酵食品の代表としてキムチが発達した理由は、人々が農耕を生活の基本とし、野菜を好んで食べたこと、また水産物の塩蔵技術に優れ、薬味として幅広く利用していたこと、それとキムチに利用されている白菜が広く栽培、普及していたことなどが挙げられます。「野菜の塩漬」を意味する「沈菜(チムチェ)」が、「キムチ」に変化したとも言われています。
キムチは栄養面でも非常に優れた食品です。主材料の白菜、大根、唐辛子、にんにく、葱などには薬理作用があり、豊富なビタミンが含まれています。さらに、発酵することによってそれまでになかったビタミン類が生まれ、整腸作用を助け、消化を促進します。また、発酵は乳酸菌を増やし、防腐作用を助けるほか、食欲増進にもつながります。
このように、キムチの栄養価は大変高く、他に類をみないすばらしい健康食品であるといえます。
また、三方を海に囲まれた韓国は、魚や貝の種類が多く、四季を通じてたくさんの漁獲量があり、その豊富な材料でさまざまな塩辛が造られ、保存食として発達してきました。塩辛はキムチ造りには欠かせない材料で、アミの塩辛、タチウオの塩辛、カキの塩辛などそれぞれを好みで選んで漬け込み、キムチに旨味と風味をもたらします。
キムチの種類
キムチの種類は非常に多く、最も基本的な白菜キムチをはじめ、大根キムチ、キュウリキムチ、海藻を使ったキムチなどがあります。そのほか、季節ごとに、大根の葉、たんぽぽの根、葱、カラシ菜など、いろいろな材料を使ってキムチを漬けます。各家庭で代々受け継がれてきたものなども合わせれば、その種類は数百にも及びます。
なかでもよく知られているものには、次のようなものがあります。


- 白菜キムチ
どの家庭でも漬ける代表的なキムチです。
- カクトゥギ
白菜キムチと並ぶ代表的なキムチで、大根をサイコロ状に切って漬けたものです。
- 白キムチ
北朝鮮で発達したキムチ。唐辛子を使わないでつくるので、さっぱりとしています。
- オイソバギ
いろいろな薬味をキュウリに挟んで熟成させたキムチ。
- ポサムキムチ
白菜の葉で中身を包んだキムチで、「ポキムチ」とも呼ばれます。
- チョンガキムチ
白菜キムチが熟成するまでに、一足先に食べるキムチ。歯ごたえのある小ぶりの大根を漬けます。
- 水キムチ
白菜と大根などを漬け汁に入れ、発酵させたキムチ。
キムチの保存
崔:昔は冬に野菜がとれなかったため、とれる時季にたくさんとって、キムチなどに加工し、瓶に入れて土に埋めていました。今はみんなマンションになって、昔のように保存することが難しくなりました。そこで、3か月くらいの間食べられるように温度の調節ができる、キムチ専用の冷蔵庫がよく売れています。だから外国の人がやってくると、「韓国は冷蔵庫がすごく大きいですね」と言われます。冷蔵庫をパッと開けると、そこにはミッパンチャンと言って、常備菜やその他に塩辛や、キムチや、豆の煮物などが入っています。そういったものと、季節の魚の焼きものや焼き海苔があれば、もう簡単に食事ができるのです。
韓国では家に遊びに行くと、「ご飯は食べましたか?」とよく聞かれます。食べてないと言ったら、「早くきて」と言って、おかずの隣にスプーンだけ置けば、すぐ食べられるようになっているんです。スープなどもたくさんつくってあって、誰がきても困らないようになっています。
キムチ専用の冷蔵庫は、今韓国の主婦が一番欲しいと思っているものの一つとなっています。
基本的な調味料
調味料は、日本と同じようにしょうゆと味噌があります。とくに、唐辛子味噌のコチュジャンは韓国料理にはなくてはならない調味料です。これに好みに合わせてごま油、にんにくなどを加え、体によい効用のある調味料として、料理に使用します。
豊富な野菜料理

韓国料理は野菜料理といっても過言でないほど、野菜をふんだんに使い、毎日の食卓に並びます。
生野菜の消費量をみても世界第一位(韓国農村経済研究所、2001年推計)で、一人あたり年間186kgも食べています。
日本の焼き肉屋では肉が主体となりますが、韓国の焼き肉屋では、蒸したキャベツ、エゴマの葉、サンチュ、葱などをはじめ10種類くらいの野菜が供されます。焼いた肉をこれらの葉で包んで食べるので、知らず知らずにいろいろな野菜を食することになります。
食材を専門に扱う市場では、溢れんばかりの新鮮な野菜が、ところ狭しと並べられています。いろいろな野菜を盛り合わせたものを市場で手に入れ、家庭の食卓に並べます。日本では珍しいキキョウの根、タンポポの根、高麗人参の根なども並んでいます。
また、韓国では、かぼちゃ、大根、ナスなどを乾物にして、しょうゆ漬けや、キムチ風の和え物などにして食べられています。
米を使った料理

韓国では、白米だけでなくいろいろな穀類(麦、豆、黒米など)を混ぜ合わせて炊き上げたご飯も食されています。
また、お粥の種類も数多くあり、なかでもゴマ油で炒めた米に、水を入れて炊き上げると、こうばしい香りになり、おいしいお粥が出来上がります。
お米はご飯にして食べるだけでなく、粉末にしてさまざまな料理に使われています。
韓国の百貨店には米をはじめ、何十種類もの穀類が取り揃えてあり、お客はその中から好みの玄米、麦などを選び、その場で粉にしてもらいます。韓国の家庭では、これを牛乳や水などに混ぜて毎朝飲んでいます。
また、日本でもよく知られるチヂミ(韓国風お好み焼き)は、食感をもちもちとさせるため、小麦粉のほかに米の粉(上しん粉)を加え、いっそうおいしいチヂミに仕上げます。
韓国の餅(トック)はうるち米を使うので、日本のもち米でつくられた餅に比べ、粘り気が少なく、のど越しのよいものです。韓国でも日本と同じように、お正月にはトックを入れたお雑煮が欠かせません。
いろいろな家庭料理
常備菜(ミッパンチャン)には、キムチをはじめ、塩辛、豆の煮物などがあり、それに季節の焼き魚や焼き海苔を添えると、食事の準備ができあがります。
塩辛はイシモチ、タチウオ、スケソウダラ、タラ、イカ、ワタリガニなど魚介類を材料にして造られます。
また、キムチはいろいろな料理に応用できます。冬の間はチゲ(鍋)料理に、またチヂミに加えたり、豚肉と炒めた料理にと、なくてはならない常備菜です。
豚肉、あさり、豆腐、ニラ、葱、キムチなどを鍋に入れ、水を加えて煮立て、コチュジャンと味噌で味付をするチゲ料理は、昼の定食として人気があります。若い人たちにはソーセージやツナを入れたチゲが好評です。最近ではいろいろな新しい材料が入ったチゲがだんだん増えてきています。
納豆に似た強い匂いの味噌でつくったチゲ
肉、野菜、豆腐などにキムチを加えた定番のチゲ
鶏肉と野菜をコチュジャンで味付けした炒めもの。出来上がりに、ご飯や麺を入れてもおいしくいただけます
ご飯の上にナムル(野菜の和え物)をのせ、よくかき混ぜて食べます
体に優しい飲み物
昔の韓国では、薪で炊いてできたご飯のおこげに水を入れ、煮出したものを飲んでいました。現在は、食後に、体に優しい材料からつくられた漢方茶を飲んでいます。 生姜茶、葛の茶、コーン茶、チコリのお茶とその種類はいろいろあります。また、季節ごとに飲まれる飲み物として、冬はカリンや柚子の砂糖漬け、もしくはハチミツ漬けにしたものを熱い湯に溶かして飲み、春には松の花粉を集め、水にさらして干したものを飲みます。松の花粉の飲み物は、かつては宮廷でしか飲まれなかった最高級の飲み物だったそうです。秋には五つの味をもつ五味子(オミジャ)という木の実を収穫し、お茶にして飲みます。この五味子は五臓六腑に効用のあるお茶として昔から飲まれています。また、柿からつくる酢を冷たい水に入れ、ハチミツを加えたものもあります。
また、ニッキと生姜を煎じた飲み物などは、昔から今に伝わっている飲み物のひとつです。このように自然からの恵を季節に合わせてお茶や飲み物として、体に 摂り込んでいます。
なつめと生姜をじっくり煮出したお茶
気管支炎や消化器系統の不調に効果があります
砂糖漬けにした柚子のエキスを熱湯に溶いて飲みます
体に優しいデザート
食事と同様、韓国ではデザートでも薬食同源が重んじられ、消化を助け、胃にもたれることのほとんどない、体にやさしいデザートが大半です。日本の女の人たちは、「デザートは別腹」と言いますが、韓国ではデザートも体によいものを日頃から食べています。麦芽とお米を発酵させた上澄み液からつくるシクケは、消化作用のあるものとして、食後には欠かせないデザートの一つです。お餅や、上しん粉、餅粉を材料につくられたお菓子も数多くあります。いずれも体によいゴマ、松の実などと組み合わせてつくられています。
大麦の芽を乾燥させ粉にしたものを麦芽紛といい、水飴の材料になります
食を通しての国際交流

「韓国の発酵食品」より(2002年5月10日)
崔:韓国では、発酵食品を含め、自然の恵みを体に摂り入れ、体のためになる食事として、昔から伝統料理の中に活かしてきました。
しかし、最近では大家族から核家族化への傾向が強まり、食生活も手づくり中心の食べ物から、既成品を使った食事へと変化しています。
韓国に限らず、大切な食生活を次世代に受け継いでいくことはとても大切なことであり、守っていかなければなりません。
韓国の料理でも、基本調味料としてしょうゆが使われています。このように料理の中に、意外と日本と韓国の共通点も見られるのです。ですから、日本も韓国も食卓を通じて、お互いによいものを取り入れ、発展させていくことは、すばらしいことだと思います。
人間は、おいしいものを食べると幸せを感じます。さまざまな食べ物を通して、世界各国との文化交流がより盛んになることを切望します。
「韓国 オモニの食卓」 崔 智恩(チェ チ ウン) 著 PARCO出版
「日本語版 世界の味 韓国料理」 韓 晶惠(ハン ジョンヘ) 著 旭屋出版
「アジアの食文化」 秋野晃司・小幡壮・澁谷利雄 編・著 建帛社
金 榮吉(キン ヨンギル)(写真家)
韓国観光公社東京支社





