江戸醤油の復元
まとめ

「江戸醤油」を検証し、「交代劇」の背景を考える

今回造った「江戸醤油」は、
1 想像していたより色が淡かった
2 旨味がうすく、その一方で、塩味がしっかりと感じられる
3 しょうゆの香りがやや弱い
4 つけ・かけ用には適さない
しょうゆは、諸味の熟成期間の長いものの方が、旨味成分も増して香りもしっかりします。さらに塩味の辛さも取れ、しょうゆとしての完成度が高いといえます。今回復元した「江戸醤油」は、熟成期間が短い分、塩味が立ちます。このしょうゆが当時の「下り醤油」に近いとするなら、旨味があり塩辛さの少ないしょうゆが市場に現れたとき、そのしょうゆに人々の好みが移っていったのも無理はなかったことでしょう。とはいえ当時、勘と経験だけを頼りに完成度の高いしょうゆを造り上げていた先人たちの知恵と工夫には驚かされます。またそれを可能にした日本独特の醸造環境も見逃せません。野田では古くから「一年諸味は香りよし、二年諸味は味よし、三年諸味は色よし」といわれ、これら熟成期間の異なる諸味の混合割合を変えて搾ることにより、使う人の嗜好に合わせたしょうゆを何種類も造り出す技術を持っていました。この技術は、関東のしょうゆ醸造家が「下り醤油」に追いつけ、追い越せと努力した過程から生み出されたものでしょう。上方の「下り醤油」から関東の「地廻り醤油」への交代劇は、江戸の人たちが好んだ料理の「色・味・香り」を満たすために、関東のしょうゆ醸造家たちのたゆまぬ努力の結果でもあると思えます。

本膳・二の膳

本膳
膾(きす、さより、独活繊切り、牛蒡、栗)/飯
汁(つみいれ、ねいも、つみ菜、柚子)/濃蕉 (あんこう、蕗、木の芽)香の物(奈良漬、たくあん、からし菜)

二の膳
鯛なげ作り(かき鯛、くらげ、山葵、煎り酒)汁
小鯛和え物/ひじきの白和え

近茶流宗家 柳原一成

近茶流宗家 柳原一成
■ 東京農業大学農学部卒業
■ 東京・赤坂にて
 「柳原料理教室」主宰

柳原料理教室で日本料理の指導にあたる一方、自ら野菜を育て、魚を釣り、日本全国の食材を訪ねてまわるなど食材そのものへの研究にも力を注いでいる。現在、母校・東京農業大学客員教授、儀礼文化学会常務理事、日本醤油技術センター理事。

参考資料:萬金産業袋・野田醤油株式会社二十年史 他
協  力:秋田杉桶樽協同組合・近茶流宗家・赤穂市立海洋博物館・赤穂海水株式会社
制作企画:キッコーマン国際食文化研究センター
企画協力:NHKプロモーション