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-よみもの-

第14回 小学校高学年の部(作文)読売新聞社賞

おじいちゃんのカレーの前

おとなりに住んでいる私のおじいちゃんは、いつも勉強を教えてくれたり遊び相手になってくれるので、毎日のように会いに行きます。おばあちゃんはピアノを教えているので、お仕事が忙しい時はおじいちゃんが晩ご飯を作ります。
私がまだ小さかった頃のお話です。
キッチンに立つおじいちゃんが顔をのぞかせこちらに手招きしていたので、首をかしげ向かうと、
「今ね、カレー作ってるんだけどさ、カレー粉入れる前にも、美味しいのが出来るんだよ」
と、ちょっと得意そうに言いました。そしてお玉で少量の具材とお肉のお出しがたっぷり入った汁をすくって小ばちに入れ、最後におしょう油をサッとまわし入れました。私は少し意表をつかれきょとんとしていると、おじいちゃんは小さな目を大きくして私を見つめ「食べてごらん」と言わんばかりに小きざみに何度もうなずくので、スプーンですくって口にしてみました。するとそれは、本当に本当に美味しくて、私も目を大きくしておじいちゃんに何度もうなずいていました。
おしょう油をほんの少し入れただけなのに、お肉の油分と長時間にこんでいたお野菜の甘みに、おしょう油の何とも言えない、いい香りでうっとりする美味しさでした。まるで、じんわり温かい何かが体の中を優しく歩いているような感覚でした。
それからおじいちゃんがカレーを作り始める時には必ず二人でおしょう油で食べるのですが、一度だけ食べ過ぎて、おばあちゃんに
「あれ?今日のカレー少なめだね」
と言われたので、食べるのは少しだけにしています。でもそれは、「少し」だから美味しいような気もします。おじいちゃんと私の秘密みたいで、少しだけよそって食べるときは、心の奥がクスクス笑っているように、くすぐったい気持ちになるからです。
カレーライスももちろん好きですが、私はこの「カレーの前」を二人でこっそり食べる時間が大好きです。

INFORMATION

第14回 小学校高学年の部(作文)読売新聞社賞
「おじいちゃんのカレーの前」
近藤 咲菜 こんどう さな さん(北海道・11歳) 札幌市立幌西小学校 5年
※年齢は応募時

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