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-よみもの-

第17回 一般の部(エッセー)優秀賞

勇者のレベルアップ

 母が亡くなり、父は一人暮らしとなった。自営業だったので、店の掃除や仕事で使った物の洗濯をしていたので掃除・洗濯はできるが、問題は食事だ。昭和一桁生まれの父は、包丁を持ったことがなかった。

 クッキングレベル0の父に無洗米でご飯を炊けるようになってもらい、私と妹が一週交代でお惣菜を届けることにした。おかずを詰めたタッパーを保冷バッグに詰め、片道一時間半かけて実家に通った。隔週とはいえ、3,4か月もするとおかず作りに疲れてきた。せっかく作っていったおかずがほとんど手を付けられずに冷蔵庫に残っていると、疲れも倍増した。

 そこで、一緒にスーパーに行き、食べたいものを聞いて買い物をすることにした。魚コーナーで、鮭のハラスが食べたいと選び、精肉コーナーでは生姜焼きが食べたいと言うので豚肉をカゴに入れ、生姜焼き用のたれも買った。冷凍食品コーナーでは、お好み焼きと今川焼を選び、お惣菜コーナーでカキフライととんかつを選んだ。実家に戻り、父と一緒に生姜焼きを作り、鮭のハラスを焼いた。一緒に買い物をして、高齢者は、揚げ物や脂っこい料理は食べないとうのは勝手な思い込みだと気づいた。

 翌週、父のところに行った妹から驚きの報告があった。父が、一人でスーパーに行き、生姜焼きを自分でも作ったと言っていたと。さらに、牛肉とステーキソースを買って調理して食べたというのである。「もうドラクエの勇者が経験値を積んでレベルアップするときの音楽が頭の中で鳴ったよ。」そう言って笑合った。それから、勇者チチは、さらにレベルアップしていった。そうめんや蕎麦を茹でられる様になり、パスタを茹で色々なパスタソースで合えることも覚えた。買ってきた天ぷらやとんかつで天丼やかつ丼を作った。朝食のパンのお共に様々なジャムやはちみつ、チョコスプレットなども揃えていた。干物セットをお取り寄せし、テレビショッピングで両面網になって魚を挟んだまま裏返せる焼き網を購入していた。ついに勇者はアイテムまで揃え始めた。

 そんなある日、従者アネは、粗大ごみを搬出するというミッションの為に実家に泊まった。朝、八時までに玄関前に粗大ごみを出すためである。「明日は、七時には起きるから」そう言って休んだ。翌朝、コーヒーの香りで目覚め、台所に行くと、テーブルの上には、フレンチトーストとバナナジュースが並んでいた。私を驚かすために夜遅くにパンを卵液に浸して準備をしたらしい。生まれて初めて食べる父の手料理であった。じっくり卵液を吸ったパンはふわふわで、贅沢に使ったバターの香りとたっぷりかかったはちみつ、美味しくて、頭の中ではレベルアップの音楽が鳴りっぱなしであった。

INFORMATION

第17回 一般の部(エッセー)優秀賞
勇者のレベルアップ
永澤 朱美(ながさわ あけみ)さん(東京都・64歳)
※年齢は応募時

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