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-よみもの-
第17回 一般の部(エッセー)優秀賞
『がんこ婆ちゃんと涙』
幼少期に田舎に行くと、祖母が作ってくれたおはぎが私は大好きだった。法事で親戚中が集まった時にたくさん作ってくれた時のことが今でも忘れられない。
「婆ちゃん、今日はたくさんだね。」
と私が言うと
「今日はよりをかけたからうまいぞ。」
と言って私のほっぺたの下に手を出した。ほっぺたが落ちるくらい美味しいぞという意味だ。私は嬉しくて、両手にそれぞれ一個おはぎを持って、口の中に頬張った。すると、その日のおはぎの味はちょっとしょっぱかった。(よりをかけるとしょっぱいのかな。)
そんなことを考えていると、隣で食べていた従兄弟たちが、
「うわーなんだこれ。しょっぱいよ。」
と言いながら吐き出してしまった。祖母は慌てて、おはぎを口に入れると
「ごめん、ごめん。砂糖と塩を間違えた。作り直すから、皿に戻せ。」
そう言った祖母は、私が手に持っているおはぎを取って、
「お前はしょっぱくなかったか?」
と聞いてきた。私は
「うん。でも、もう一つの味がした。」
そう言うと
祖母は、急に私を抱きしめて
「しょっぱいおはぎを食べさせて御免な。」
と言ったので
「もう一つの味もおいしかったよ。でもね、いつものおはぎの方がもっと美味しいよ。」
と言うと祖母は
「お前は優しい子だね。」
と言いながら私の目を見つめてきた。その時、婆ちゃんの目からは、涙が溢れていた。もちろん初めて見る涙だ。私はなんとなく見てはいけないような気がして、ちょっとしか見られなかったが、しっかりと私の脳裏に焼きついていた。おいしいおはぎの味ともう一つの味と共に。
以後、婆ちゃんの涙を見ることはなかった。鬼籍に入っているので、あの時の涙は私が見た婆ちゃんの最初で最後の涙だった。
そして、あの時、婆ちゃんに抱かれた時のぬくもりも、体がなんとなく覚えている。
今でも、田舎で従兄弟たちに会うと、婆ちゃんの仏前で酒を交わす。すると必ず婆ちゃんの話になり、親戚のだれかが
「お前はがんこ婆ちゃんを泣かした唯一の孫だ。」
と酒の肴にされてしまう。そして、それは私にとってテレもあるが、誇らしくもあり、最高の宝でもあり、決して忘れられない瞳に焼きついた大切な婆ちゃんとの思い出である。いつものジューシーで程よい甘さのおはぎともう一つの味がしたおはぎと。
「おいしい」の定義がわからなくなるおいしい思い出だ。
INFORMATION
『がんこ婆ちゃんと涙』
村岡 大二(むらおか だいじ)さん(埼玉県・56歳)
※年齢は応募時
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