Readings

-よみもの-

第1回 入賞作品

思い出のお弁当

私は二十歳の頃、付き合っている恋人がいた。まだ学生だった私達は共にお金がなかった。私が作ったお弁当を持って、近所の広い公園へ出掛けるというのが定番のデートだった。彼はいつも美味しそうにお弁当を食べてくれた。その笑顔と空っぽになるお弁当箱を見るのが嬉しくて、毎回一生懸命手作りした。

そして迎えた私の誕生日。

「明日のデートは誕生日だし、お弁当はいいよ。俺がご馳走するよ。」

と彼は言ってくれた。私は、どこのお店に連れて行ってくれるんだろうと、とても楽しみにしていた。

そして当日、景色の良い高台に車でドライブに出掛けた。ベンチに座った彼は鞄をゴソゴソとし、

「お誕生日おめでとう。」

と大きな風呂敷包みをくれた。開けてみると、それは彼が初めて自分で作ったお弁当だった。大きさがまちまちの丸いおむすび、焦げた卵焼き、四本足のたこさんウインナーがぎっしり詰まっていた。

「お袋が後ろからニヤニヤしながら見てくるし、すごい恥ずかしかった。」

と彼。私は一番大きなおむすびを選んで、口いっぱいに頬張った。中からミートボールが出てきた。

「全部違うおかずが入ってるよ。」

と得意そうな彼。シュウマイ、唐揚げ、エビチリ、次々におむすびから出てくるおかずに、二人で笑い転げながらお弁当を食べた。今まで食べたお弁当の中で一番美味しかった。

その後私達は結婚し、初めてのお弁当から十二年が経った。息子が産まれ、来年はもう幼稚園に行く。遠足の日は主人に息子のお弁当を作ってもらおうかな、と今から考えている。私が作るキャラクター弁当より、主人が作ったビックリおむすびの方が息子は喜ぶんじゃないかな、と思ったりする。息子は私そっくりでビックリ、ドッキリするのが大好きだから。

INFORMATION

第1回 入賞作品
「思い出のお弁当」
吉田 彩子さん(京都府)
※年齢は応募時

他の作品を読む

これも好きかも

共有

XLINE
おいしい記憶