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-よみもの-

第7回 一般の部(エッセー)優秀賞

母の野菜ジュース

ある時は苔のような緑色。またある時は、赤みを帯びた薄い橙色をしていた。さらさらとゆるい液状の時もあれば、妙に固くて、コップをひっくり返しても落ちてこない時もあり、そんな時は仕方なくスプーンで掬って口に運んでいた。

それが母お手製の野菜ジュースだ。

味はといえばこれがまた不味く、家庭用のミキサーでかき混ぜられただけの舌触りはざらざらしていて、時には粉砕しそこねたブロッコリーの茎などが喉に引っかかることもある。母曰く、それらの大物は「当たり」らしかった。

毎日欠かさず朝食と一緒に出されるその野菜ジュースが、私はどうしても苦手だった。時間が経つと、コップの中で野菜カスと水分が分離する見た目からして、爽やかな朝の天敵としか思えない。

「やっぱり今日もあるの?」

文句を言うと、母は「もちろん」とわざと意地悪そうに笑ってみせた。

トマトにレタスにホウレンソウに茹でたブロッコリー、きな粉、いりこ、そして牛乳。多少の入れ替わりはあるものの、これが基本の材料だ。

これらを無理矢理ジュース状にしただけなのだから、味が悪いのも当然だ。

ジュースを一気飲みしたら洗面所にダッシュして歯磨き。僅かな間でも、その最悪な後味を感じたくなくて、息まで止めていた。

そんな私なので、高校を卒業し、一人暮らしが決まった時は、何よりも最初に野菜ジュースから解放されることを喜んだ。

しかし家を出て少しして、私は食卓から野菜ジュースがなくなったことを聞いた。その代わりに、ごく普通のサラダが添えられるようになったのだという。何も私がいなくなった途端にやめることないのに。もちろん、私はそう思った。

「なんでやめたの?」

「せっかく作ってるのに、みんな文句しか言わないし。やる気なくなっちゃった」

文句なら私だって散々言ったのに、そんな今さらなことを母は言った。

大学一年の夏休みに帰った我が家では話に聞いた通り、もう野菜ジュースは出てこなかった。野菜ジュースのない朝にすっかり慣れた弟は、眠そうな顔をして納豆を混ぜている。

「本当にあれ出てこなくなったんだね」

キッチンを見れば、すっかりお役御免になったミキサーに埃防止の布きれが被せられていた。

「だって、あれ、食うの遅くて朝バタバタしてる姉ちゃんの為に作ってたんでしょ?」弟がさらりと口にした言葉に、私は思わず何も言えなくなった。

比較的口が小さい私は、確かに他の家族に比べて食べる速度が遅かった。そんな私が少しでも焦らずに食事が出来るように。野菜ジュースは母の私に対する優しさだったのだ。

「やっぱり今日もあるの?」

「もちろん」

いつかの母との会話を思い出す。

あの日の食卓にあったのは、温かい朝食と、相変わらず美味しくない野菜ジュース。それと、母の愛情だったのだと、今なら分かる。

現金なことだけれど、思い出とは美しく思えるもので、今になってみればあのジュースも意外と美味しかったような、そんな気もしてくる。

INFORMATION

第7回 一般の部(エッセー)優秀賞
「母の野菜ジュース」
衛藤 緒利恵 ごとう おりえ さん(東京都・20歳)
※年齢は応募時

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