
Readings
-よみもの-
2020年度 キッコーマン賞
祖母が教えてくれた「生きがい」
私の初めてのお弁当作りの思い出は3年前の春にさかのぼります。私は料理がとても苦手です。しかし、そんな私がふとしたきっかけでお弁当を作ることになりました。
毎年、私たち家族は、祖母たちとお花見へ行くのですが、そのお弁当作りは祖母と私の母とが担当しています。しかし、私が小学5年生のその年、お花見のお弁当作りの日に母が行けなくなり、そのかわり急遽私がお弁当を作ることになったのです。それが人生初のお弁当作りのきっかけとなりました。
初めにとりかかったのは定番の玉子焼きです。卵の黄身と白身が分離しないようにしっかりと混ぜ、砂糖にしょうゆ、とりがらで味つけをし、何回にもわけて卵を入れきれいな形になるように焼き上げました。次におにぎり。私はここで祖母からきれいに握るテクニックを学びました。お米を持つ前に手を塩水でぬらして握るのです。きれいな三角形にするのは難しかったけれど、なんだかとても楽しかったのを覚えています。沢山のおかずを作っている間、私はあることに気が付きました。それは祖母が料理をしている間中ずっと鼻歌を歌っていたことです。私は気になって聞いてみました。「料理、楽しい?。」と。そうすると祖母は「これはね、私の生きがいなのよ。」と答えました。
私にはその時祖母が言った「生きがい」という意味がよく分かりませんでした。たしかに祖母の家へ行くと毎回キッチンで料理をしている祖母の姿を見かけます。そして、いつもおいしいご飯を食卓に並べてくれます。だけどやっぱり生きがいという意味が分かりません。
お花見当日、私と祖母でつくったお弁当を桜の下で広げました。色鮮やかなお弁当を囲んでそこにいるみんなが「おいしい。」と言って食べてくれました。祖母はとても嬉しそうな顔でその様子を見ていました。祖母が言う「生きがい」とはこういう事なのかもしれない、私はその時思ったのです。
中学生になって毎日、お弁当を作ってもらっています。母は何も言いませんがきっと私の「おいしい」という一言を思い描きながら作っているのだと思います。祖母が教えてくれた「生きがい」とは家族を思う心なのかもしれません。私はこの作文を書いて、改めてお弁当を作ってくれる人の思いをかみしめながら食べたいと思うようになりました。そして、私にこのことを気づかせてくれた祖母にも感謝の気持ちでいっぱいです。

INFORMATION
祖母が教えてくれた「生きがい」
新居 モエ (盈進中学校 2年)
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