
Readings
-よみもの-
2021年度 日清オイリオ賞
祖父に贈るお弁当の日
毎日夕方四時半、祖父の家の玄関にお弁当がひとつ届く。 それは塩分糖質控えめの特別なお弁当で、血圧を下げて血糖値とやらを正常に保ってくれる手助けをしてくれるらしい。何にでもどばどばと胡麻ドレッシングをかける祖父が、届いたお弁当だけはそのまま素直に平らげるのを見て、「よし、わたしも祖父にお弁当を作る!」と決めた。祖父は糖尿病を患っていて、つい先日数度にわたる手術の末退院したばかりだった。コロナ禍で見舞いにも行けず、わたしは自分にもやっと何かできることが見つけられたみたいで嬉しくなった。
まず、「高血圧」「食事」とインターネットで検索してメニューを考えるところから始めた。祖父はさつまいも天入りの酢豚が好きだから、調味料をなんとか工夫してでもそれは入れると決めていた。それから秋だからサンマ、きのこ、デザートは柿。調べていく中で、海藻類は食物繊維が多く含まれるだけでなく、血圧降下作用のあるカリウムも豊富に含んでいることがわかった。また酢の酸味やごま油の風味を利用することで、塩分が少なくても美味しく食べる工夫ができることもわかった。
そうしてメニューが完成して迎えた週末、母にカウンター越しに見守ってもらいながら、生まれて初めてのお弁当作りに取り掛かった。まずお米をといで炊飯。それから酢豚に取り掛かった。知らなかったけれど、母は豚肉に薄口醤油で下味をつけるのだと教えてくれた。人参、セロリ、ピーマンの切り方にもこだわりがあった。具材の大きさを揃えると味が均一になること、きのこは油で炒めずに蒸し焼きにしてから味付けすると水っぽくならないこと、冷ましてから詰めること。今回お弁当を作ってみて、料理には一つ一つの工程にレシピ本に載り切らないちょっとした経験や知恵がたくさんあってそれがその人の味を作ってい
るのだと思った。
張り切って差し出したお弁当を祖父は、うんうんとひとつ残さず平らげてくれた。胡麻ドレッシングに手も触れずに!「もっちゃん、ありがとうね」という言葉がこんなに沁みたことはない。
誰かのことを思ってしたことでこんなにも喜んでもらえてわたしも幸せな気持ちになって、毎日母が「お帰り」と同時に「お弁当、美味しかった?」と聞いてくる気持ちが初めて分かった気がした。
また来月もその次の月も、季節の食材を活かしたお弁当を作って祖父に届けたい。

INFORMATION
祖父に贈るお弁当の日
寺迫 桃花 (英数学館中学校3年)
他の作品を読む
これも好きかも
