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-よみもの-

2021年度 全日本中学校技術・家庭科研究会賞

ありがとう

お弁当にどのような意味があるのか。幼い頃の私はそのような事を考えたことがありませんでした。しかし、中学一年生のある日私はお弁当の持つ力に気が付きました。

「自分のお弁当なんだからたまには自分で作ってみたら?」と母に言われた私は、次の日の朝早く起きてお弁当を作ろうとしました。まだ眠いから寝ていたい、面倒くさいという気持ちで溢れて朝から不機嫌でした。 いざ、お弁当を作ろうとしても何から始めたら良いか分からず、もうお弁当なんていらないと思った時ふと台所の壁に目が行きました。いつも母がお弁当を作ってくれている場所の前の壁には、ある紙がたくさん貼ってありました。一瞬何か分からず顔を近づけて見てみると、それは私が母にあげたメッセージカードだということが分かりました。私の小学校では毎年、一年の最後のお弁当の日にいつもお弁当を作っ

てくれたお礼のメッセージを書いて渡すという習慣がありました。実のところ、私は小学校高学年くらいからはその習慣が少し面倒に思えてあまり気持ちを込めて書いた覚えはありませんでした。しかし、母はそんなメッセージカードですら大事に残して一年生の時のものからきちんと順番に壁に貼ってくれていました。それを見た瞬間、今までの眠気は飛び、面倒くさいという気持ちは母への感謝と申し訳ない気持ちに変わりました。中々お弁当を作り終わらない私を心配して来た母に「こんな前のカード取っておいたんだね。」と言うと、「これを見てると今日も頑張ってお弁当作ろうと思えるんだよね。」と笑いながら話してくれました。その後は母と一緒に初めてお弁当を作りました。自分で作った卵焼きの形は不格好だったけれど、母と一緒に作ったためか味はいつもの母の味がして胸が温かくなりました。お弁当なんて何でも同じだろうと思っていましたが、その時のお弁当はいつもより何倍も美味しかったです。

お弁当はおかずの種類や配置が似ていると一見同じようなものに見えますが、それでもそのお弁当にはそれぞれ作った人の想いが込められていて全く同じものはないのだと気付きました。お弁当を食べる時、私たちは食べ物の栄養だけでなく作ってくれた人の想いも一緒に頂いているのだと思います。私にはこれからまだ数年、母にお弁当を作ってもらう機会が多くあります。なので、一日一日のお弁当を大事に頂いて、学校生活最後のお弁当の日には小学生の頃と同じようにメッセージカードを書き、母に伝えたいです。

「長い間、毎日美味しいお弁当を作ってくれてありがとう。」

INFORMATION

2021年度 全日本中学校技術・家庭科研究会賞
ありがとう
長瀬 友生 (晃華学園中学校3年)

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