
Readings
-よみもの-
2021年度 キッコーマン賞
「ひーぼー」のお弁当
みんなから「ひーぼー」と呼ばれる私の叔父さん。お盆と一ヶ月前に会った時とでは、随分痩せていた。聞くと、胃潰瘍で食事がまともに摂れず、体重が5キロも落ちたらしい。
ひーぼーは、五十四歳。仕事は、深夜二時に出勤し、トラックで配送業務をこなし、お昼過ぎに帰宅する。独り身で、ご飯こそ炊くものの、おかずはスーパーやコンビニで買ったり、外食も多い生活だ。出来合いも美味しいけれど、栄養に偏りがでるし、食生活の乱れも胃潰瘍の一因になったのではないかと心配になった。親戚の集まりでいつも中心になって動いてくれるひーぼーはみんなが頼りにしていて大好きだ。いつまでも元気に過ごしてほしくて、私はお弁当を作ることにした。
さあ、お弁当になにを入れようか。ひーぼーの好物だけを入れたら偏りが出てしまう。五十代のおじさんのお弁当ってなにが入っていたら嬉しいだろう。行き詰まった私は、お盆でひーぼー三兄妹が集まってるところに亡きお婆ちゃんのお弁当について聞いてみた。毎回エビフライが入っていて嬉しかったこと、近所の商店で買った唐揚げや、手作りの甘い甘い卵焼きが入っていたことを教えてくれた。思いのほかお弁当の話に盛り上がって皆、笑っていた。お婆ちゃんがいなくなっても、記憶の中にあるお弁当は鮮明だった。ただ、私はお婆ちゃんのお弁当は食べたことがない。私の記憶にあるのは、色鮮やかで綺麗な美味しいちらし寿司を作ってもらったこと。その場で沢山食べるのに、ひーぼーはよく持ち帰っていた。悩みに悩んで、お婆ちゃんのお弁当を再現は出来ないけど、懐かしさもありながら栄養バランスがよく色鮮やかなお弁当をコンセプトに献立を決めるのに二時間。調理に三時間を使って、お弁当を完成させた。慣れない料理に苦戦はしたが、ひーぼーを思って作るお弁当作りは楽しかった。
後日、空っぽのお弁当箱が「ありがとう、美味しかった。エビフライは身がぎっしりで、卵焼きの甘さは婆ちゃんそっくりだった。また作って」という言葉とともに返ってきた。
また、人間ドックを予約したことや、栄養バランスを考えた食事の配送サービスの利用を検討していることも教えてくれ、お弁当を通して私の思いが通じたような気がした。
大切な人への愛情がいっぱい込められているお弁当は素敵な贈り物だと、私は思う。

INFORMATION
「ひーぼー」のお弁当
矢田 菜々穂 (倉敷市立真備東中学校2年)
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