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-よみもの-
2022年度 文部科学大臣賞
特別なお弁当
十四才、中学二年生の僕は、食べる事が大好きだ。しかし未だラーメン店に行った事がない。レストランでパスタやケーキを食べた事もない。そう、僕には食物アレルギーがあるのだ。卵と小麦を口にすると体に反応が出てしまう。最近はほんの僅かなら食べられるようになってきたが、小さい頃は完全に小麦・卵を除去した食事を取っていた。
僕が通っていた幼稚園は園内で給食を調理している所だった。昼近くになると園は美味しい香りに包まれる。だが残念ながら僕は皆と同じ給食を食べることが出来ない。調味料一つ取っても小麦・卵が使用されていることが多いからだ。醤油の原材料は大豆、塩、そして「小麦」だ。園には毎日お弁当を持って行った。母が小麦・卵を除去しながら給食メニューそっくりのおかずを手作りし、詰めてくれたもの。煮物、揚げ物、野菜の和え物にみそ汁。「お楽しみメニューはハンバーガー」なんて日は米粉でパンを焼き、ハンバーグをサンドして持たせてくれた事もあった。「みんなには内緒だけど晟太郎のだけはダブルバーガーよ」と嬉しく楽しい秘密を忍ばせて。
家族の協力のお陰で僕は食に対し卑屈になったり消極的になったりすることなく、これまで伸びやかに食事を楽しんできた。好き嫌いも殆ど無い。体も心も大きく育ててもらったと大変感謝している。
この夏休み、幼稚園時代の小麦・卵完全除去食弁当を自分で調理し再現してみた。まずは出汁から。顆粒出汁には小麦が使われていることがあるので、鰹節から出汁を引く。醤油は使えないので塩やみそ、三温糖などで味付け。胡麻や塩昆布、梅干しを薬味に入れると風味が付いて美味しい。鶏の揚げ物は衣を小麦・卵ではなく片栗粉にして竜田揚げにすれば立派すぎるほどのメイン料理だ。除去食もアイデア次第で美味しい物が沢山作れる。母の工夫を色々聞かせてもらいながら調理していると懸命に僕を育ててくれた母の気持ちが伝わってきた。栄養に不足が無いように。美味しく味わってくれるように。そして、誤食をすれば命に係わる事故となるため、間違いが決して無いように。
まだ、暫くはラーメン店に行けそうにない。だから僕が家でラーメンを作ろうと思う。雑穀麺を使い、スープはみそ味にしよう。ごま油で風味を付けようか。家で育てた野菜もたっぷり乗せよう。そして家族みんなで温かな気持ちを笑顔で味わおう。

INFORMATION
特別なお弁当
矢坂 晟太郎 (三条市立第四中学校2年)
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