
Readings
-よみもの-
2023年度 文部科学大臣賞
ご飯と共に炊き込まれたもの
「お母さん。僕、なんか不安・・・・・・。」まさに青天の霹靂、弟は、小学二年生の冬から突然、何事に対しても敏感になり、極度の不安からか、今までのように生活できなくなってしまった。
学校に行くことを嫌がるようになった他、特に深刻だったのは、今まで当たり前のように完食していた給食を一口も食べなくなってしまったことだ。弟はこの頃から家でもあまり食事を取れなくなってしまい、少しずつ痩せていく姿に僕は心配の色を隠せなかった。 そんな時、家庭科の宿題で、料理を一品作るというものがあった。僕はなんとか弟が家で食事を取れるようにするため、弟の好みに沿って炊き込みご飯を作った。僕は薄味が好みだが、弟が好きな濃い味付けにしたり、弟が苦手な野菜を入れずに作ったり、鶏肉のサイズを少し小さめにしたり、ご飯を柔らかめに炊いたり・・・・・・。このようなことを意識しながら作ってみると、自分の好みで料理を作るよりも難しかったが、相手のことを考えながら料理を作ることで、不思議と自然に気持ちがこもるように感じた。
炊き込みご飯が無事に完成した。正直僕は料理の腕に自信がなく、この炊き込みご飯を弟に食べてもらえるかどうか心配で仕方がなかった。そんな中、いよいよ弟とふっくらとした炊き込みご飯が対峙した。弟は、最初こそ「食べる」ということに少し不安を感じ、あまり箸が進んでいなかったが、思い切って一口食べると、すぐに「おいしい!」という声が上がり、音を立てて勢いよく食べ進め、気づけばお茶碗の中にはもう何も残っていなかった。
その後、弟はこの炊き込みご飯を食べることができたことをきっかけに、家で少しずつ食事を取ることができるようになっていき、最近では給食もおかわりするほどたくさん食べられるようになり、様々なことに対して極度の不安を感じることもなくなった。あの時のことを考えると奇跡に近いことだ。
それではなぜこのような奇跡が起こったのか。料理が目新しかったり、好みに合っていたためだろうか。それはその通りだと思う。しかし僕はそれ以上に、あの炊き込みご飯を弟を想って作るうちに、「一緒に頑張ろう」というように弟を励ましたり鼓舞したりするような特別な想いが弟に伝わったからだと思っている。僕はこの時、目に見えない「食の力」を感じることができた気がした。

INFORMATION
ご飯と共に炊き込まれたもの
長濱凜之介 (大府市立大府西中学校3年)
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