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-よみもの-

2020年度 特別賞

ステイクッキング

 やった。中学2年生になれる!とワクワクしていた矢先、学校が休校になった。学校が大好きな私にとってこの上なく悲劇的な出来事だった。好きな本を読んだり、丸一日勉強にいそしんだり、時に畑の土いじりをしたりして過ごした。しかし、何をしてもずっと変わらずついてまわることがあった。そう、それは食べることだ。普段は、電車の時間を気にしてかきこむ朝食、昼は母の日替わり彩り弁当、そして帰れば好みを知った家族が作る温かなゆったりとした夕餉。それが変わり自粛期間、毎日3食家族で食卓を囲むのだ。これほど食に向き合うことになるとは!そして私は思い立った。「毎日私が料理する」その日から私
のつたない料理人修行が始まった。
 まずは1食に1品。今まで家で手伝って覚えたり家庭科で習ったものを作ってみた。スクランブルエッグ、野菜炒め、お味噌汁……。その1品1品に「すごくおいしいね」と毎度家族中が取り立ててほめてくれる。それが、私は嬉しかった。気分が良くなり、日に日に品数が増えていった。入れる調味料や手順やコツを聞き、だんだん上達した。気づけば、1人で1食を作れるようになってきた。そうすると、昨日はお肉だったから今日は魚にしようとか、今日は和食だったから明日は中華にしてみようかな、などメニューや味のバランスを考えるようになった。さらには、栄養バランスがまんべんなく摂れているかと気を配れるようにもなった。こうして自分がキッチンに立ってみて、今までこれをずっと1人母が忙しい仕事の中、してくれていたのだということに気がついた。何げなく食べていた一皿にどれほどの労力や思いが詰まっていたのだろうか。
 毎日食と向き合う日々で、改めて毎日口にする食べ物が私の体を作っているんだな、と実感した。また、温かいスープにほっとして、暑い日には涼しげな素麺に畑で採ったばかりの薬味をのせたりと、体だけでなく心まで深く満たすものだと感じた。
 世はまだまだ感染症の脅威にさらされている日々だが、私はこの栄養たっぷりの食事で何だか乗り越えられる気がした。そうだ!明日は暑い中仕事に出掛ける母のためにお弁当を作ろう。愛情ふんわりと包み込んだ、私の得意料理の卵焼きを入れて。

INFORMATION

2020年度 特別賞
ステイクッキング
田邉 麗(山梨大学教育学部附属中学校2年)

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