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-よみもの-

2020年度 佳作

お弁当におかずは入っていますか。

 「お弁当をテーマにしたエッセイをつくりまーす。」その言葉で私は、あることを思い出した。それは確か、小学校6年生の頃だっただろうか。ちょうど修学旅行への準備期間で、平和の事について学んでいた。
 当時、なんとなく聞き流しながら授業を受けていると、目を疑うような光景が目に飛び込んできた。教科書の参考写真。第二次世界大戦中頃の小学生のお弁当だった。彩りがなく、白いごはんの上に梅干しがちょこんと座っていた。私は驚愕した。授業中であったが、「ひゅう」っと息をのんでしまい、隣の席の人からちら見をされた。私が「今生活ができていることを必ずしも当たり前だと思うな。」という先生の言葉に深く共感したのは、後にも先にもこの時だけだった。私はこのお弁当では生きていけない。けれど、実際にこのお弁当を食べてみたくなったので、母に頼んでみることにした。「ねえ、ねえ。今度の休みごはんに梅干しだけのお弁当作ってよ。」「何言っとるん。自分で作り。」一刀両断された。結局私がこの質素なお弁当を作る日はこなかった。しかし、今この出来事を思い出したのは心残りがあるからではないだろうか。私は3年たった今、あの梅干し弁当を作ってみることにした。
 おなかが空きすぎてはいけないから、決行は日曜日にした。そしてその日の朝、ごはんと梅干しを弁当につめた。お昼になった。ちょうど12時、弁当のふたをあけ、少しかたく、冷たくなったごはんをかきこむ。梅干しはごはんを半分食べた所でなくなった。食べおわって30分位たった頃、おなかが「グー」っと鳴った。なんだかとても悲しい気分になった。2回、3回とおなかが鳴って「グーキュルキュル」とおなかが鳴った4回目。ついに私は冷蔵庫をあさり始めた。ウインナー、卵焼き、追いご飯に明太子。全部完食した。おなかがふくれたのと同時に、心はぎゅっとおさえつけられたように苦しくなった。
 お弁当があるということは、とても幸せなことだ。お弁当を作ってくれる人がいるということは、とても幸せなことだ。母が手作りをしてくれた梅干しを、口にほおりこむ。おいしくて、でもすっぱくて目に涙がにじんだ。

INFORMATION

2020年度 佳作
お弁当におかずは入っていますか。
坂本 桃香(福岡女学院中学校3年)

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