
Readings
-よみもの-
2021年度 特別賞
当たり前じゃない美味しいご飯
母は365日元気で当たり前、と思っていた。その母が体調を崩して寝込んだ。この出来事は僕の住む札幌に冬、ピンク色の雪が降るくらいに僕にとってはショックで衝撃的な事だった。衝撃を受けようが、ショックを受けてようが、腹は空く。父は相変わらず無茶苦茶忙しい様だった。なので連絡するのは気が引けた。祖母の住む街は飛行機の距離だ。とにかく僕がなんとかしなくちゃいけない、その事だけが確かだった。幸い、冷蔵庫にも食糧庫になっている棚にも食材はある。母も何か食べないと元気になれない、と考えた僕はとにかくお米を柔らかめに炊こうと米を研ぎ鍋で炊き始めた。小学校の時に家庭科で調理実習をした時の感覚を徐々に取り戻す。卵も栄養価が高いと習った。卵を焼こう、と思って割ったら、細かい殻が少し入ってしまった。小さめのスプーンで取り除こうとするけれど、スルっと逃げてなかなかすくえない。母が片手でできていることが、僕は両手を使って二倍の時間をかけてもできない。鼻の奥がツンとして涙の気配がしたから、慌ててメニューを考え直した。野菜を洗ってザクザク切ってウインナーと塩コショウで炒めてみる。こちらは彩りとか見栄えも良く、玉子焼きの挫折で粉々になっていた自信は少し修復された。段々と上手く行き始めた。ご飯がつやつやと美味しそうに炊けた。それも思った通り、少し柔らかめに。ふりかけをかけて母に運んでいくと、びっくりしたような顔をした後、くしゃくしゃの顔になった。くしゃくしゃの顔のまま、僕の作ったご飯を「美味しい、美味しい」と言って、むしゃむしゃ食べた。食後に温かいお茶を飲むころには、顔色が随分よくなっていた。「優しい心がこもったご飯をお腹一杯食べたから、どんなお薬を飲むよりも元気になるよ」と笑顔でお礼を何度も言われた。この事から、僕は毎日ご飯を作ってくれている母にきちんと感謝を伝える大切さを理解できたような気がする。

INFORMATION
当たり前じゃない美味しいご飯
堀山 直浩(札幌市立向稜中学校2年)
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