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-よみもの-

2022年度 特別賞

魔法の宝石箱

 私の祖父母は料理という魔法でみんなを笑顔にすることができる。二人のレストランでみんなを笑顔にしている。昔はお弁当でも魔法を届けていた。お弁当は魔法のかけらがたくさん詰まっていた。色とりどりの具材、食べても飽きない味の豊富さ。そして五大栄養素は必ず入っていた。例えば、肉があるなら魚、しょっぱいものがあるなら甘いもの、煮物があるなら焼き物、揚げ物を入れる。この工夫の詰まったお弁当を祖父は一日、約三十個、磨いた熟練の技でテキパキと心を込めて作っていった。そして、ここからは祖母にバトンタッチ。魔法がかかった温かいお弁当を大切に風呂敷に包み、届け先まで配達する。車で約二.五キロの道のりを時間通りに走る。目的地に着くと、三十個ほどのお弁当を台車に移し、食堂へ運ぶ。母に当時の話を聞くと私も一緒に行ったことがあるそうだ。毎日重いお弁当を運んでいる祖母は、七ケ月の私とお弁当を台車に乗せても軽々と運んでいたそうだ。お弁当を届けると、楽しみに待つお客さんから 「ありがとう」と「笑顔」が溢れていたと祖母は話してくれた。
 祖父母の魔法はお弁当を開ける前から、人々を笑顔にする。それを知り、私は味や見た目もさることながら、相手を想い、まごころ込めて作る気持ちが大切だと感じた。
 それから数年がたち、私は中学校一年生になった。祖父母と一緒に届けたお弁当の思い出は消えかけていた。そんな時、お弁当の日が私の記憶をよみがえらせてくれた。もう、祖父母はみんなにお弁当を届けていない。だったらやることはただ一つ。祖父母の想いを今度は私が繋いでいく。みんなが笑顔になるお弁当を作る。その日、私は家族にお弁当を届けた。祖父の教え通り、肉(生姜焼き)を入れたら、魚(鮭)。しょっぱいもの(冬瓜と油揚げのひき肉あんかけ)をいれたら、甘いもの(卵焼き)。焼き物(生姜焼き)があれば揚げ物(油揚げ)。タンパク質(生姜焼き、鮭)、炭水化物(ごはん)、ビタミン(ブロッコリー)など五大栄養素もばっちりおさえて作った。私なりの魔法とまごころを込めて。
 はじめは母と父が食べた。「いただきます」一口食べたとたん、二人からは「おいしい」という言葉と「笑顔」がこぼれた。一番言ってほしかった言葉。なんだかほっとして、私も笑顔になっていた。
 やはりお弁当には人を幸せにする、魔法の詰まった宝石箱だ。

INFORMATION

2022年度 特別賞
魔法の宝石箱
栗田 夏帆(町田市立真光寺中学校1年)

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