Readings

-よみもの-

2022年度 特別賞

お姉ちゃんの野菜炒め

 私には六才離れた妹がいる。妹は、ほとんど風邪もひかないくらい健康だが、ご飯をあまり食べないからか体が小さく、クラスでは一番背が低い。食事の時は、おしゃべりばかりでしっかり食べないため、よく母に叱られることも多い。
 小さい体の妹を気にして私の両親は、妹にご飯を食べさせることにいつも気を使っている。これなら妹が食べてくれそうだとか、以前たくさん食べていたからまた買ってみよう、など。私もつい妹にしっかり食べないと駄目だよ、なんて言ってしまうのだった。そんな妹が時々思い出したかのように食べたいというメニューが一つある。それは、今から二年前、小学校六年生の家庭科の宿題として私が作った野菜炒めである。
 当時の私は、料理なんてしたこともなかったし、包丁の正しい持ち方さえ良くわかっていなかった。何から始めたらいいのか分からず、家庭科の教科書やノートを繰り返し読み調理の仕方を覚えることにした。しかし、やってみようとすると一人では何もできず、結局隣で母に教えてもらいながら作ることになった。野菜炒めの作り方は、一見、とても簡単そうに思えた。野菜や肉を一口サイズに切り、油で炒め塩コショウで味付けをする、という手順だ。でも、人参は固く切りにくいし、玉ねぎを切る時は目がしみて涙が出てきた。具材に火が通ったかどうかよく分からないし、一番難しかったのは味付けだ。「塩コショウを適当にふりかける」と母は言ったが適当がどのくらいなのか私には全く分からなかった。だから何度も味見をして、一番これだ!と思えるところで味付けをストップした。母が作る何倍も時間がかかったと思う。
 野菜炒めを作った後、とても疲れていて家族みんなに食べてもらうことも正直たいしてあまり期待をしていなかった。しかし、一口食べて最初に「美味しい!」という言葉を言ってくれたのは妹だった。
 妹は、「美味しい! お姉ちゃんが作ったの? すごいよ!」と少し興奮気味に話しながら、私が作った野菜炒めを独り占めする勢いで食べ続けた。その姿を見た私は本当に嬉しくなった。初めての料理でとても難しく疲れていたけれど、がんばって作って本当に良かった、と思った。美味しそうにたくさん食べる妹を見て、母も嬉しそうだったのを覚えている。
 妹はそれからというもの、時々「お姉ちゃんの野菜炒め」が食べたいと言ってくれる。しかし、部活や勉強で忙しいということを理由に、「今度ね」と言い続け作ってあげられなかった。でも今はせっかくの夏休み、また興奮気味に美味しく食べる妹の顔を見るため、「お姉ちゃんの野菜炒め」を作ってあげようと思う。

INFORMATION

2022年度 特別賞
お姉ちゃんの野菜炒め
松田 蓮那(浦添市立浦添中学校2年)

他の作品を読む

これも好きかも

共有

XLINE
おいしい記憶