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-よみもの-

2024年度 文部科学大臣賞

弁当の力

 僕に幼い頃の記憶でとても思い出に残っている弁当がある。それは母の手作り細巻き寿司が入った弁当だ。なぜこの弁当に対して特別な思いがあるのかというと、僕が幼い頃に海外で暮らしていた思い出とつながるからだ。
 僕は幼稚園から小学校一年生の終わりまで父の仕事の関係でヨーロッパに住んでいた。引越して最初の頃、僕は英語が話せずクラスメイトとの関係に距離を感じていた。そんなこともあり元気がなかった僕を励ますため、母がある日の弁当に細巻き寿司を入れてくれたのだ。その日のお昼のランチタイムは忘れもしない。弁当のふたを開けた途端、クラスメイトが僕の周りに集まり、
「ジャパニーズスシ!」
と大興奮で話しかけてきたのだ。この出来事をきっかけに、あっという間に僕は皆んなの輪にとけこんだ。
 久しぶりにこの特別な弁当を食べたいと思い、母に教えてもらいながら作ることにした。
 作り始めると、巻き寿司というのは何て大変な料理なのだろうと驚いた。中に入れる具材を一つ一つ下ごしらえしなければいけないし一番難しいのは、具材を真ん中にもってくるように巻くこと。海苔の上にご飯をひろげるのも、指先に米粒がたくさんくっつき大変だった。一気に巻く時はとても緊張し、成功するようにと祈る気持ちで巻いた。最後に湿らせた包丁で巻き寿司を切ると、何本かは海苔がはずれて崩れてしまったが、ほとんどの巻き寿司は上手く切ることができた。
 おかず作りは、巻き寿司作りでほとんどの力を使い果たしたので、なるべく簡単なものにしようと考え、ウインナーや卵焼き、ビーマンと塩昆布の炒めもの、唐揚げにしてみた。それでも一つ一つ手間のかかるものだと実感させられた。
 ようやく全ての料理が出来上がり、冷ました後に弁当箱につめていく。巻き寿司を詰めただけでとても立派な弁当に見えて満足な気持ちになった。最後に弁当の写真をとった時本当に頑張ったなと自分を褒めたくなった。
 この弁当づくりを通して僕が感じた事は、弁当には人を励ましたり元気にしたりする力があるということだ。弁当作りは大変な労力がかかる。でも弁当を作った後の達成感、母のように誰かのために作る素晴らしさが弁当の魅力だと気づかされた。
 将来僕も母のように愛情をこめて誰かのために弁当をつくりたいと思った。

INFORMATION

2024年度 文部科学大臣賞
弁当の力
三井 祐人(周南市立秋月中学校1年)

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