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-よみもの-

2024年度 キッコーマン賞

思いやりとお弁当

 小学校から中学校まで給食のある栃木県に住んでいる私は、すっかりお弁当を食べる機会が少なくなってしまいました。お弁当を食べるときは部活の大会や運動会など少し特別な日です。お弁当を作ってくれるのは基本的に母で「この日お弁当必要だからお願い。」と頼むと、いつも私が大好きな卵焼きをいれてくれます。ある日完食したお弁当を台所に出したとき、母がある話をしてくれました。
 それは私がまだ4歳で幼稚園に通っていた頃の話でした。幼稚園にはおにぎりの日とお弁当の日が交互にありました。私はお弁当の日が特に大好きでその日を楽しみにしていました。あるお弁当の日に病み上がりだった私は時間内に食べ切ることができず、幼稚園の先生に「無理しなくていいんだよ。残しても大丈夫だよ。」と言われても黙々と食べ続け、完食したそうです。この話を幼稚園の先生から聞いた母は未だに覚えていたようです。
 さて、今年の夏休みに学童保育に通うことになった妹は毎日お弁当が必要になりました。
 夏休みの期間、家族の中で一番朝に余裕のある私はお弁当づくりに挑戦することにしました。家庭科の授業で自分用のお弁当を作ったことはありましたが、誰かのために作ったことはなかったのでとても緊張していました。
 まず、前日にお米をとぎ炊飯器にセットして、朝いつもより早く起きて台所に立ちました。おかずは卵焼きと夏野菜の肉巻き、大学芋にしました。
 無事お弁当が完成し、妹を送り出すことができました。妹が帰ってきて「お姉ちゃん、お弁当美味しかった!」と感想を伝えてくれました。妹の帰りを待っている間、お弁当の味や量は大丈夫だったか不安だったのでとても嬉しく、安心しました。このとき、何故母が何年も前の話を覚えていたのか分かった気がしました。誰かを想って作った料理が相手に届いたと分かった瞬間、本当に嬉しい気持ちで満たされます。お弁当には、栄養だけではなく相手を想う気持ちが入っているんだと実感することができました。
 また妹は私が作った卵焼きが母の味に似ていたと言っていて、「和食には家庭の味が出やすい」ということを思い出しました。大好きな母の料理を作れるようになりたいと思い、私が料理を好きになるきっかけにもなりました。
 私に色々なことを気づかせてくれた母と妹には感謝の気持ちでいっぱいです。誰かを想う「思いやり」の気持ちを大切にこれからもお弁当を作ろうと思います。

INFORMATION

2024年度 キッコーマン賞
思いやりとお弁当
鈴木 日和(宇都宮市立河内中学校3年)

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