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-よみもの-

2024年度 特別賞

祖父母と作る「福島弁当」

 毎年夏休みは、家族と福島県に住む祖父母に会いに行く。八月八日に宮崎県で発生した大きな地震をきっかけに、今年は祖父母の家に行くついでに東日本大震災の跡地を訪ねることになった。福島県の太平洋側は、津波の被害があった。そして、原発事故で広がった放射性物質の影響で福島県産の農作物は、店頭に置いてもらえなかったことを知った。私はつらい気持ちになった。毎年福島県を訪れていたのに、何も知らなかったのだ。祖父母がいる大好きな福島のために、私は福島県の農作物を使ってお弁当を作ることにした。
 祖父はお米や野菜を育てていて、お弁当に入れる野菜は一緒に収かくした。とうもろこし、トマト、きゅうり、ピーマンなど、畑には様々な種類の野菜があった。しかし、私はピーマンが苦手だ。「ピーマンは苦いからいらないよ。」と伝えると、祖父は「このピーマンはとても甘いよ。」と答えた。祖父が作ってくれた野菜だし、少しだけでも入れることにした。メニューと味つけは、祖母にアドバイスをもらった。「手は猫の手にして。」と何度も注意されながら、特にピーマンを小さく切った。野菜を洗ったときの水分がついたままだと、炒めるときに油がはねることも教えてもらった。お弁当箱に少しだけスペースが空いたので、福島県産の桃を入れた。桃は変色するので、お弁当には不向きだと教わったが、大好物の桃ははずせないメニューだ。
 ようやくできたお弁当は、「福島県」でいっぱいだった。準備の時間に比べて、食べる時間はあっという間だった。「ピーマン食べられたね。」と祖父に言われるまで、ピーマンを入れたことを忘れるくらい、ピーマンは苦くなかった。福島のお弁当を作ろうと思った理由と、震災のあと地を見て感じたことを祖父母に話した。「福島のことを想ってくれてありがとう。」と言ってくれた。福島の役に立てたのかなと思うと、心がとてもあたたかくなった。

INFORMATION

2024年度 特別賞
祖父母と作る「福島弁当」
山口 桜(江戸川区立平井西小学校5年)

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