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-よみもの-

2024年度 特別賞

ベランダ遠足

 台所で過ごす時間が好きだ。大好物の卵料理やアボカドサラダは一人でもよく作る。どんな風味に仕上がるのかイメージしながら料理すると、頭の中においしい思い出がプクプクと湧いてくる。思い出し笑いをしたり、時にはちょっと切なくなったり、料理をしていると物語の真ん中にいるような気持ちになる。
 私が小学一年生の時に新型コロナがやって来た。入学式も遠足もなくなり小学生になった実感もうすいまま、二年生に進級した。
 二年生の遠足はなんとか決行された。何日も前から、家族に呆れられながらお弁当のメニューを考えた。「何を入れようかな」と、心躍らせながらお弁当の献立作りをするところからが、私にとっての遠足なのだ。当日の朝、私は楽しみ過ぎてとても早起きをした。ちょっと緊張しながら、いつもより慎重に卵焼きを焦がさないように集中して作った。
 四年生になった私は、遠足の朝、大号泣して母を困らせていた。数日前から体調不良だった私は熱を出して遠足に行けなくなったからだ。三年生の時も新型コロナの感染拡大で遠足は中止になった。「ようやく今年は行けると思ったのに私はなんてついてないんだ」、心の中はショックと悲しみで埋め尽くされていた。「卵焼き、美緒が作る?」そんな私に母が問いかけた。泣き過ぎて目も腫れて声も枯れていたが、食欲はある。母と並んでお弁当を作るうちに、不思議と気持ちが落ち着いてきた。心なしかいつもより卵焼きもアボカドサラダもおいしそうにできた。二階のベランダに敷物を敷いて、同じく風邪で休んだ兄も一緒に、母と三人でお弁当を囲む。見慣れたベランダの景色がいつもと違って特別な感じがした。風が涼しくて心地いい。「あんなに泣いていたのによく食べるね」、兄に言われて、皆で笑う。私にとって、あの時食べたお弁当は、今でも忘れられない「遠足」の記憶だ。

INFORMATION

2024年度 特別賞
ベランダ遠足
大濵 美緒(石垣市立平真小学校5年)

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